扉の蔭の秘密(扉の影の秘密)

Secret Beyond the Door 1948年(98分)

監督/フリッツ・ラング

プロデューサー/ウォルター・ウェンジャー 原作/ルーファス・キング 脚本/シルヴィア・リチャーズ 撮影/スタンリー・コルテス 音楽/ミクロス・ローザ

出演/ジョーン・バネット(シリア・バレット) マイケル・レッドグレイブ(マーク・ラムフィア) アン・リヴィア(キャロライン) バーバラ・オニール(ロビィ) ナタリー・シェーファー(エディス) ジェームズ・シェイ(リック・バレット) マーク・デニス(ディヴィット)

(あらすじ)
 ニューヨークの富豪の娘で、社交会の花形であるシリア・バレットは、両親が他界してから求婚者は掃き捨てる程あったが、真実愛せる男性は見出せないでいた。唯一の頼りであった兄リックが急死し、弁護士ドワイトに求婚されたシリアは、結婚する気になったが、、はっきりと決断しないまま、友達のイディスとその夫に連れ立って、メキシコ旅行に出かける。そこで、彼女はある男の視線を感じ、なぜか引き付けられていく。男はマーク・ラムフィアという建築家で、ニューヨークで『アート』という建築雑誌を出しているという。彼について知った事はそれだけであるにもかかわらず、熱病のように心を奪われたシリアは、マークと結婚してしまう。
 幸福な幾日が過ぎると、マークは何かに取りつかれたように落ち着きがなくなり、雑誌の用事だといって、急にニューヨークへ発ってしまう。その後手紙で、ラヴェンダー・フォールズへすぐ来いといってくる。それはニューヨークから少し離れた小さな田舎町である。その駅に降りたシリアだが、そこにマークの姿はなく、彼の姉キャロラインが迎えに来ていた。
 駅から小一時間も車を走らせた森にある、古い大きな家がラムフィア邸である。シリアはそこで初めて、マークが以前結婚していたこと、その妻との間にデイヴィッドという息子があること、そしてマークの秘書だというロビイ嬢というヴェールを被った女が同居していることが分かった。マークが初婚だとばかり思いこんでいたシリアは、何だがぞっとして不吉な予感に襲われた。それはメキシコで別れるときの感じに似ている。マークと結婚したのは失敗だったのではないか、マークに感じる何か秘密めいた奇異な印象は、一体何を意味するのか。
 マークの帰りを駅に迎えたとき、最初は喜んでいる様子だったのに、彼は銀行に用があるといって冷然と歩き去った。空しく帰宅したシリアはニューヨークへ去る決心をしたが、間際になって思いとどまった。
 マークは不思議な蒐集をしていた。それは六つの部屋で、世界各地の惨酷な殺人が行われた現場を再現したものだった。古くは聖バーソロミュー祭の虐殺の日に起こったパリーに住む一伯爵の愛妻殺害の部屋から、近くはミズーリ大洪水の折に保険をかけた母を溺死させた地下室まであったが、第七号室だけは秘密でシリアにも見てはならぬと、マークは禁じた。しかし、第七号室にこそマークの奇妙な性格の謎が秘められていると感じたシリアは、鍵の蝋型を取り、イディスに頼んで合い鍵を作った。
 深夜シリアは第七号室に入った。それはシリアの寝室と寸分違わぬ部屋だ。マーク・ラムフィアが愛妻シリアを殺した部屋となるのだ。彼女は愛するマークに殺されてもいいと思った。
 しかし考えてみると、彼が彼女を殺したい衝動にかられるのは、少年時代に受けたショックが潜在意識となっているからだと分かった。それは母への誤った憎悪であることが、母の愛したというライラックの花を刈り取らせて棄てたこと、シリアがライラックの花を襟に付けたりライラックの香水をつけたとき、マークを刺激したことから帰納したのである。
 シリアは第七号室にライラックの花を飾り、マークを待った。しかし過ぎし日にマーク少年を苦しめたのは、母ではなく姉のキャロラインだったのだ。真実を知ったシリアはそのことをマークに教え、記憶の糸を手繰らせた。マークは潜在意識の呪縛から脱した。二人が抱擁していると、煙が立ちこめてくる。嫉妬に狂乱したロビイ嬢が放火したのだ。しかしシリアがマークに救い出されたことは言うまでもあるまい。