松竹蒲田の中でも別格として扱われていた野村芳亭が、人気がかげりはじめていた撮影所創設以来のスター川田芳子(松竹映画第一回作品主演女優)を主役に据えた新派大悲劇物。野村芳亭好みの通俗的な大衆受けを狙った演出で記録的な大ヒットになる。モダンな蒲田調映画の推進に務めていた所長の城戸四郎は古いタイプの監督とスターが古いタイプの映画を作ったことに大いに不満だった。脚本は第一回脚本研究生出身の柳井隆雄が師匠の野田高梧に添削してもらいながら書き上げた五本目の作品だった。春子役を演じた当時六歳の高峰秀子は60名の一般公募から選ばれた。野村には23年の同名タイトルの大ヒット映画『母』(栗島すみ子主演)があるがこれとは別作品。