■ダニエル・シュミット
©2021 Filmo
©1972 T&C Film, Zürich
年に一度、主人と召使の役割が逆転する一夜限りの儀式をモティーフにした作品。召使たちの前に主人たちの手によって次々と飲み物や料理が運ばれる。旅芸人の一座が現われ、ボヴァリー夫人の死の一幕劇をはじめとする様々な出し物が演じられる。
やがて、降霊術のような儀式もはじまり…。
退廃そしてブルジョワジーのスペクタクル化。本作は、自身の生家でもあるグリゾン州のシュヴァイツァーホフ・ホテルで撮影された。ダニエル・シュミットと後に世界的な撮影監督となるレナート・ベルタの出会いの作品でもある。
©Collection Cinémathèque
suisse. All rights reserved
青年貴族のイジドールは、不治の病で余命幾ばくもない娼館の歌姫“ラ・パロマ”ことヴィオラに魅せられ、彼女もその一途な愛を受け入れて二人は結婚する。病から回復したパロマは、夫の友人ラウルと激しい恋におちるが、ラウルが去った後に次第に精気を失って死ぬ。彼女の遺言により、三年後に彼女の墓を掘り起こしイジドールは棺を開けるが・・・。愛と狂気と死を描き、歌劇、怪奇、メロドラマなどあらゆるものへのフェティッシュが混交するシュミットの代表作。
■アラン・タネール
©JUPITER-FILMS.COM
1960年代後半に青春を送った8人の「小さな予言者たち」の現在と未来への希望がスケッチ風に描かれる。68年5月革命で挫折した闘士、密教にのめり込む女性秘書、有機農法に取り組むエコロジストの夫婦…。失業中の夫に代わり工場で働く女性には四人目の子どもが生まれる。21世紀を迎える頃には25歳になるジョナスの存在がかすがいとなって、未来への思考が動き出す。イギリスの小説家・美術評論家ジョン・バージャーが脚本に参加。
©Collection Cinémathèque
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アイルランドの田舎町。パブで働く青年ジョナスは、皆から変人扱いをされているヨシュカという老人に魅せられて、彼の住む納屋を訪ねる。ジョナスに対して老人は「師」として次々に試練を与え、最後に鷲を捕まえてくるように言う。飛ぶことはすべての境界を無効にするかのように。ヨシュカ老人役には『逢びき』『ライアンの娘』で知られるイギリスの名優トレヴァー・ハワードを起用。カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞。
■フレディ・M・ムーラー
©FMM Film GmbH
『エイリアン』のキャラクター・デザイナーとして知られる、画家ハンス・ルドルフ・ギーガー(1940-2014)の制作過程を記録し、その作品世界の誕生を探求するドキュメンタリー。意識や無意識、幼少期の記憶や未来への予感をつなぐイメージの「通行路」。画家の「外」と「内」は、迷路のように結びつきながら、幻想的なリアリズムを生み出す。ギーガーがアルバム『恐怖の頭脳改革』のカヴァー・デザインを手掛けたエマーソン、レイク&パーマーの曲が効果的に使われている。
ムーラーが、自らの故郷ウーリ州の山岳地帯で撮った長編ドキュメンタリー作品。直接民主制による政治参加、伝統的な牧畜経営の一方で、トンネル建設によって自然環境が脅かされる地域や、牧畜経営だけでは生活できないために町へ働きに出る住民も少なくない。民俗学的なアプローチや共同体の閉鎖性といったテーマは、『山の焚火』に繋がっていくだろう。村人たちの語りが画面の「オフ」で聞こえるがゆえに、彼らの眼差しは無言で見つめるかのように観客へ投げかけられる。
©2004 T&C Film, Zürich
あたかも現代の神隠しであるかのように、満月の夜を機にスイス各地で子どもたちが次々に失踪する。親や警察は懸命にその行方を捜査するが、事件は奇怪な事態へと発展する。ほぼ同時期に発表されたシュミットの『ベレジーナ』(1999)と同様に、寓話的な物語のなかにスイス社会の暗部が浮かび上がる。モントリオール世界映画祭アメリカ・グランプリ受賞作。
■特別上映作品
1943年スイスに生まれ、パリで育つ。スイス大使館の文化担当官として東京、ニューヨークで勤務し、スイス映画の普及に尽力。90年に職を辞しフリーの写真家となる。91年から新潟市に在住。ギャルリーワタリ(東京・90年)、羊画廊(新潟・98年)、Arterage Modem Art Gallery(ウラジオストク・ロシア・99年)、新潟絵屋(新潟・2000年)、たけうち画廊(新潟・2004年)等で個展を行うほか、『週刊新潮』、新潟日報などに写真と文を発表。著書に『旅の虫』(2000年 新潟日報事業社)『パリでまた逢おう CI VEDIAMO』(2004年 同)。新潟・砂丘館で個展開催中の2020年12月12日77歳で急逝。
©Jean-François Guerry
新潟市にある砂丘館の展示のために制作された、スライドショー形式の映像とナレーションによる作品。2020年1月から5月にわたり、新潟県の海岸で撮影された「流木」シリーズから写真が選ばれている。モノクロームによって時間を止めた流木たちの枝や肌の形象のなかに、死だけでなく生々しい性のエネルギー、幻想的な生物の姿が浮かび上がり、ゲリー自身の生の旅が重なり合う。
■参考上映作品
山形県上山市の蔵王山中に入った、戸数わずか8軒の古屋敷村とその住人たち。冷害による稲作被害の原因を科学的に究明する前半から、かつて盛んだった炭焼きや戦争体験などについて老人たちが個人史を語る後半まで、ひとつの共同体を舞台にしてニッポン国の歴史絵巻が展開する。小川紳介監督とスタッフは自ら農業を営み被写体と関係を築き上げていく。ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作。1986年に来日したフレディ・ムーラーは、小川紳介の映画作りに共感。山形県牧野村に小川を訪ね、熱い映画論を交わしている。