ストローブ=ユイレの軌跡 1962-2020 第4期/上映作品解説

歴史の授業

歴史の授業
Geschichtsunterricht

1972年/85分/16mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ ベルタ

ブレヒトの未完の長編小説「ユリウス・カエサル氏の商売」の一部を再構成。カエサルの共和制ローマが資本主義の台頭と共に不公正を生み出す過程を、カエサルの同時代人たちが、現代のローマ市街を車で移動する現代の青年に対し証言する。

アーノルト・シェーンベルクの《映画の一場面のための伴奏音楽》入門

アーノルト・シェーンベルクの《映画の一場面のための伴奏音楽》入門
Einleitung zu Arnold Schoenbergs "Begleitmusik zu einer Lichtspielscene"

1972年/15分/16mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

1923年に作曲家シェーンベルクが、友人の画家カンディンスキーの反ユダヤ主義的発言に対して書いた激烈な絶縁状の朗読に、シェーンベルクが架空の映画音楽として作曲した曲が重なる。1935年のブレヒトの反資本主義演説も引用される。

モーゼとアロン

モーゼとアロン
Moses und Aron

1974-75年/105分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウーゴ・ピッコーネ サヴェーリオ・ディアマンティ レナート・ベルタ
出演:ギュンター・ライヒ(モーゼ) ルイ・ドヴォス(アロン)

「出エジプト記」に想を得たシェーンベルクの未完のオペラ「モーゼとアロン」を未完の第3幕も含め映画化。指揮はミヒャエル・ギーレン、演奏はオーストリア放送交響楽団。ユダヤの民がエジプトの地を出るまでの兄弟の思想的対決を描く。

フォルティーニ/シナイの犬たち

フォルティーニ/シナイの犬たち
Franco Fortini/I Cani del Sinai

1976年/83分/16mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

イタリアの詩人フォルティーニが、1967年の「六月戦争」を機に執筆した政治的エセー「シナイの犬たち」を作者自身が朗読する。ユダヤ人の父とカトリックの母を持つ著者のファシズム体験と、現代における中東紛争に対する階級闘争的解釈が交錯する。

すべての革命はのるかそるかである

すべての革命はのるかそるかである
Toute révolution est un coup de dés

1977年/11分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ステファヌ・マラルメの革命的な詩「賽のひと振りは決して偶然を廃棄しないであろう」を、1871年のパリ・コミューンの闘士の最後の拠点となったペール・ラシェーズ墓地の芝生に座った、様々な言語を母語とする九人の男女が代わる代わる音楽的に朗読する。

雲から抵抗へ

雲から抵抗へ
Dalla nube alla resistenza

1978年/105分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:サヴェーリオ・ディアマンティ

イタリアの作家チェーザレ・パヴェーゼの未完の神話的対話篇集「レウコとの対話」の6篇「雲」「キマイラ」「盲人たち」「狼人間」「客」「火」を映画化した第一部と、パヴェーゼ最後の長編小説「月と篝火」を圧縮再構成した第二部からなる。

早すぎる、遅すぎる

早すぎる、遅すぎる
Trop tôt, trop tard

1980-81年/101分/16mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ(第一部) ロベール・アラズラキ(第二部)

風景が映し出される中、第一部ではエンゲルスのカウツキー宛て書簡に基づき、18世紀末フランス農村の貧困状況が分析され、第二部では、マルクス主義的階級史観に基づき、近現代のエジプトにおける農民蜂起の歴史が画面外で語られる。

アン・ ラシャシャン

アン・ ラシャシャン
En rachâchant

1982年/8分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:アンリ・アルカン

五月革命の影響下に書かれたマルグリット・ デュラス唯一の童話「ああ!エルネスト」の映画化。7歳の小学生エルネストは登校拒否宣言をし、両親と共に小学校の教室で教師と面談する。だが教師は結局、エルネストを説得することができない。

アメリカ(階級関係)

アメリカ(階級関係)
Klassenverhältnisse

1983-84年/126分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

カフカの未完の長編小説「失踪者」(旧題「アメリカ」)の映画化。故郷を追われ、船で単身アメリカにやってきたドイツ人青年カール・ロスマンが様々な階級関係の中で挫折と抵抗を繰り返す。主要場面はハンブルクとブレーメンで撮影された。

四部の提案

四部の提案
Proposta in quattro parti

1985年/40分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ

イタリア国営放送で1985年年末の深夜に放映された四部構成の番組。D・W・グリフィスの無声短篇映画『小麦の買い占め』全篇、『モーゼとアロン』、『フォルティーニ/シナイの犬たち』、『雲から抵抗へ』各抜粋で構成。

エンペドクレスの死

エンペドクレスの死
Der Tod des Empedokles; oder: Wenn dann der Erde Grün von neuem euch erglänzt

1986年/132分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

フリードリヒ・ヘルダーリンの1798年執筆の未完の二幕悲劇を完全映画化。古代シチリアの詩人哲学者エンペドクレスが民衆と訣別し、自ら死を選ぶまでの物語が、シチリアのラグーサとエトナ山中腹を舞台に、晦渋な詩句によって語られる。

黒い罪

黒い罪
Schwarze Sünde

1988年/40分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ヘルダーリンの「エンペドクレスの死」の1820年執筆の第三稿の映画化。ストローブ=ユイレはこの第三稿は映画化不可能と考えていたが、ベルリン・シャウビューネ劇団による舞台脚色版に不満を覚え、原作に忠実な映画化を決意した。

セザンヌ

セザンヌ
Cézanne

1989年/50分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:アンリ・アルカン

詩人ジョアシャン・ガスケの著作「セザンヌ」に含まれるセザンヌの発言の朗読に重ねて、セザンヌゆかりの土地やセザンヌの絵が映し出される。ジャン・ルノワール監督の『ボヴァリー夫人』の抜粋と共に『エンペドクレスの死』からの二つの抜粋の挿入もある。

アンティゴネー

アンティゴネー
Die Antigone des Sophokles nach der Hölderlinschen Übertragung für die Bühne bearbeitet von Brecht 1948

1991-1992年/100分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ベルリン・シャウビューネ劇団の委嘱による舞台演出に基づく映画。ソポクレスの悲劇「アンティゴネー」をヘルダーリンが特異な方法でドイツ語に翻訳、それを基に1948年にブレヒトが改訂した版を古代円形劇場で様式的に映画化している。