■作品選定:ペドロ・コスタ(『ヴァンダの部屋』『ヴィタリナ』監督)
パリで映画を学び帰国したパウロ・ローシャの監督第一作。田舎からリスボンへ移り住み新生活を始めた若者ジュリオの恋心と孤独を清冽に描く。ロケーション撮影、省略と飛躍が印象的な、「ノヴォ・シネマ」(新しい映画)の嚆矢となる重要作。ポルトガルを代表する女優イザベル・ルトの初々しい佇まいが魅力的。
※国立映画アーカイブ所蔵の35mmプリントと、シネマテッカ・ポルトゲーザによるデジタル復元版(ペドロ・コスタ監修)DCPを上映。
ローシャの監督第二作。ポルトガルの漁村を舞台に、兵役から戻った主人公が挫折を経て、人生を再出発させるまでの軌跡を描く。村民たちの漁の様子、麦わらや砂集めなどの労働が、モノクロの映像で丹念に積み重ねられる。従来の劇映画のストーリーテリングとは一線を画す偏心的構成が斬新な佳作。
※国立映画アーカイブ所蔵の35mmプリントと、シネマテッカ・ポルトゲーザによるデジタル復元版(ペドロ・コスタ監修)DCPを上映。
14年の歳月をかけて作られた日本・ポルトガル合作映画。日本人女性を愛し、日本に歿した作家ヴェンセスラウ・デ・モラエス(1854–1929)の波瀾の生涯を描く。ポルトガルと日本、中国の古典文学を換骨奪胎し、東洋と西洋ふたつの精神が交叉する。ローシャの奔放な想像力が生み出した過剰なる問題作。
※国立映画アーカイブ所蔵の35mmプリントと、シネマテッカ・ポルトゲーザによるデジタル復元版DCPを上映。
大作『恋の浮島』でその半生が描かれた作家モラエスの足跡を、ローシャ監督自身が辿るドキュメンタリー。ポルトガル、マカオ、神戸、徳島などモラエスゆかりの地を訪ね、人々の証言に耳を傾ける。後に『モラエス恋遍路』を著した瀬戸内寂聴も登場。『恋の浮島』と合わせ鏡のような貴重な作品。
ポルトガル北部、ドウロ河沿いの小村を舞台に、初老の新婚夫妻、不倫相手の子を身ごもる若い女、幻視の力をもつセールスマンらの嫉妬と欲望が渦巻き、やがて惨劇へと至る。川とともにある暮らし、村祭り、随所で挿入される口承音楽など、土地に根差す文化をふんだんに織り込んだ、ローシャ後期の代表作。
パウロ・ローシャの遺作。主人公に父親の人生を投影しつつ、自作の断片の引用をまじえて構成されたローシャの半自伝的ドキュメンタリー・フィクション。自らの原点を探りながら、ポルトガルのアイデンティティをも俯瞰した本作は監督の生前に完成。逝去翌年のロカルノ国際映画祭で世界初上映された。