灼熱のリオ。カブスの丘のスラムに暮らす5人のピーナッツ売り少年を中心に、金と欲の力関係に翻弄される人間たちの姿を縦横無尽に交錯させた、都市生活者のタペストリー。ネオレアリスモなどに影響を受けつつ、政治状況への積極的な加担と連帯への希望を表明したこの作品は、新しいブラジル映画(シネマ・ノーヴォ)の到来を告げることになった。
干ばつのために難民生活を強いられたファビアーノ一家。ようやく見つけた農場での生活も、権力者の搾取と横暴からは逃れられない。そして、新たな干ばつが一家をふたたび「地獄」へと突き落とした。ブラジル東北部(ノルデスチ)の内陸に生きる零細農民の苛酷な現実を、地を這うような目線で描き、シネマ・ノーヴォの評価を内外に決定づけた傑作。
スペクタクルにみちた歴史劇の型式を用いて、16世紀にブラジル先住民と接触したヨーロッパ人が残した記録を参考にして、先住民の視点から「ブラジル発見」を描いた風刺的な作品。ネルソン・ペレイラ・ドス・サントスの諧謔精神に溢れた、全編、先住民言語の会話によるブラックコメディとも言える。
ウンバンダと呼ばれる民間信仰の神オグンから不死の肉体を授かったガブリエル。この不死身の主人公を中心に繰り広げられる犯罪組織や政治家をまきこんだ抗争劇が、民衆の信仰を異物化し、貧困と暴力を恒常化させるブラジル社会の実態を暴き出していく。スピーディな展開の活劇という形を借りて、大衆との精神的な共犯関係を模索したペレイラ・ドス・サントスの新境地。
今世紀初頭、人種の混交こそ民主的な社会を作ると主張して、バイア州の知識人や権力者を震撼させた混血の民間学者ペドロ・アルカンジョ。この忘れられた先覚者をめぐって、過去と現在、白人と黒人、西洋とブラジルといった複数の視線がぶつかり合う。人種にまつわるブラジル人の深層心理にメスを入れた、ジョルジェ・アマード原作による衝撃作。
ブラジル奥地出身のセルタネージャ音楽の人気デュオ、ミリオナリオ(百万長者)とジョゼ・リコ(金持ちのジョセ)を主役に迎えた音楽映画。二人がミュージシャンとして人気を得るまでの話を軸に、彼らの音楽が生まれ、歌われ、聴かれる状況を、寄り添うような眼差しで捉えていく。『オグンのお守り』に始まる「民衆映画」の延長線上にある作品。
ヴァルガス政権による共産主義者弾圧のさなか、作家グラシリアーノ・ラモスは、政治犯として監獄に送られる。そこで彼が見たものは、植民地主義の残滓と支配者による暴力、そして脆弱なエリートというブラジルの現実そのものだった。近代という時代の苦難と矛盾を背負って生きる作家の姿を大きなスケールで描いた、映画による知識人論の最高峰。
静かな川べりの一軒家に暮らすリオ・ジョルジ一家。幼い頃に川の彼方へと姿を消した父、牛に導かれ出会った美しい妻、不思議な念力を備えた一人娘。しかし、故郷を捨てブラジリアへ出た一家には、新たな苦難と喧騒の嵐が待ち受けていた。奇蹟への信仰と畏怖、生と死の不条理な輪廻を通して、ブラジル民衆の宗教心の内奥へと踏み込んだ野心作。
社会学者ジルベルト・フレイレが執筆した同名の著書(邦訳『大邸宅と奴隷小屋―ブラジルにおける家父長制家族の形成』鈴木茂訳)を、4回連続のテレビ番組として映像化。第1部は、フレイレの友人であった作家エドソン・ネリー・ダ・フォンセカが、この著書の執筆過程と出版当時の反響を語る。第2部では、教授と学生とが、インディオとヨーロッパ人の出会いについて議論する。第3部は、元々様々な人種の影響下にあったと推察される植民地のルーツが語られる。第4部では、主人と奴隷の生活描写や性的関係、サディズム等が論じられる。
「イパネマの娘」で知られるブラジルの世界的ミュージシャン、アントニオ・カルロス・ジョビン(トム・ジョビン1927−1994)の人生を残された映像や写真で紡いだドキュメンタリー。ジョビン自身やエラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラ、オスカー・ピーターソンらがジョビンの曲を歌い演奏する。「音楽は全てを語る」と、解説やインタビューなど言葉の説明はなく、音楽そのものがジョビンの人生と時代を綴る。共同監督のドラ・ジョビンはジョビンの孫娘である。
アントニオ・カルロス・ジョビン(トム・ジョビン)の妹エレーナが1996年に出版したジョビンの伝記『Antonio Carlos Jobim, um homem iluminado(邦訳『アントニオ・カルロス・ジョビン~ボサノヴァを創った男』国安真奈訳)を基にしたドキュメンタリー。ジョビンが愛した三人の女たち(妹エレーナ、最初の妻テレーザ、妻アナ・ロントラ)がジョビンを語る。ジョビンのアーカイヴ映像とともに彼女たちの記憶がジョビンの知らせざる面をあきらかにする。シネマ・ノーヴォの創始者ネルソン・ペレイラ・ドス・サントスが、同世代のボサノヴァの創始者アントニオ・カルロス・ジョビンに捧げた一作。