第3次世界大戦で破壊されたパリ。生き残った人びとは地下世界で暮らしている。汚染されていない物資を手に入れるため、過去の記憶をつよく残す男が実験台として選ばれ、過去へのタイムスリップをくり返す。全編にわたり、スチル写真をつなぎあわせることで構成された映画史に残る重要作だが、よく見ると動画の入った箇所がある。
© 1962 ARGOS FILMS
1964年、東京オリンピックを取材する目的で来日したマルケル。偶然出会ったフランス語を話す美しい日本人女性クミコを被写体にして、彼女を取りまく東京の光景をカメラで切りとる。19世紀の漫画や『シェルブールの雨傘』など、間テクスト的な引用をちりばめたエッセイ映画。マルケルが日本と深い関わりをもつ契機となった作品。
1962年5月、アルジェリア戦争が終わった直後のパリ。マルケルとロムはさまざまな社会階層の人々へのインタビューを通して、60年代初頭のパリの諸相をカメラに収めていく。第1部が、市井の人々へのインタビューを中心に構成しているのに対し、第2部は、アルジェリア戦争後の世相を反映した政治性が強く表れたものとなっている。
世界中を旅するカメラマン、サンドール・クラスナから届いた手紙を朗読する女性。その声に合わせてクラスナが「生の存続の二極地」と呼ぶ、日本とアフリカ(ギニア・ビサウとカーポ・ヴェルデ)を中心とした映像がつながっていく。時間と場所、記憶と歴史について深い考察がなされた、マルケルの代表的なエッセイ映画の一本。
マルケルは、黒澤明が監督した『乱』(1985)の富士山麓での撮影に同行して、メイキング・ドキュメンタリーを作った。黒澤明とスタッフの仕草や、おびただしい人数のエキストラの表情など、細部に焦点を当てるという一般的なメイキング映像とは異なる手法で、巨匠による歴史的な大作が形づくられるプロセスを描いていく。
1989年に没した、ソ連の映画監督アレクサンドル・メドヴェトキンに捧げられた長編ドキュメンタリー。メドヴェトキンに向けて書かれた6つの手紙という形式のナレーションを通して、その生涯とソ連の歴史が重ねあわされる。タイトルにある「Le tombeau(墓)」には、「故人を偲んで」や「故人を讃えて」という意味が込められている。
アンドレイ・タルコフスキーの遺作『サクリファイス』(1986)の撮影にマルケルが同行した際の映像、『鏡』(1975)や『アンドレイ・ルブリョフ』(1967)などの映画作品からの抜粋を通して、タルコフスキーの映像世界の豊かさが語られるドキュメンタリー。タルコフスキーとマルケルの厚い信頼関係がうかがえる親密なポートレート。
2001年の同時多発テロ事件から数カ月後、パリの街角で「ムッシュ・シャ」のグラフィティを目にしたマルケルは、笑う猫のヒューマニズムに感動し、その足跡をたどり始める…。フランス大統領選挙、イラク戦争、スカーフ論争など、2000年代初頭に起きた社会的出来事とグラフィティの出現を交差させて描いた。晩年期の傑作との評価もある。