音楽を奏でるかのように、草木、花、水や女性がまとう様々な輝きを映し出した実験映画。マティスは劇映画も実験映画も多数親しんでいたというが、顔や花のドローイングのうねるような造形からも垣間見られるように、リズミカルな抽象性を追求した点で、こうした音楽を探求する実験映画と方向性を共にしている。
ドイツ表現主義映画の巨匠ムルナウの遺作にして、ドキュメンタリー映画の父フラハティとの共同監督作。マティスはタヒチを旅行し、撮影中のムルナウと奇跡的な出会いをした。D・パイーニ氏によれば、マティスは本作を何度も鑑賞しており、絵画のみならず、彫刻《背中》の制作にもその影響が見られるという。
バーンズの壁画《ダンス》は、マティスが1910年の《ダンス》の輪舞をもとに画面を構成し、無数の習作と切り紙による修正を重ねた末に、1933年完成させた壁画。高さ約3.5m、幅約13mの巨大な画を前に、そこに貼られた紙を杖で触れながら、確認するマティスの姿を捉えた映像。
マティスの生い立ちに触れるとともに、本人が絵を描く様子を記録した貴重なドキュメンタリー映画。フランスの芸術ドキュメンタリー映画の系譜においても重要な初期作品。《ルーマニア風のブラウス》などにおける制作過程の複数の絵が連続的に映し出されるシークエンスなどに、マティスの創作熱が感じられる。
マティス本人が彩色された紙を切り、制作に励む様子を捉えた映像。シネマテーク・フランセーズの創設者H・ラングロワが、芸術に関する自由で新しい形のドキュメンタリーを模索すべく製作した映画の1つ。ヴァンスのヴィラやニースのホテル・レジーナで撮影された。
ドビュッシーの4つの音楽をテーマにした映像詩『ドビュッシーのためのイマージュ』の第4章《2つのアラベスク 第2番ト長調》。水面が風や光を浴びて揺らめく様子を捉えた本作は、マティスが本作と同年に発表した作品《波》を連想させるものとしてパイーニ氏は着目している。
©Ciné-Tamaris 1993
フランス北西部の港町シェルブールを舞台に展開する、悲劇の恋愛ミュージカルの名作。ミシェル・ルグランの音楽もさることながら、マティスの版画シリーズ〈ジャズ〉や《窓辺の女》の引用も取り入れた色とりどりの画面構成も素晴らしい。実際、本作においてドゥミは「マティスが歌う」作品を目指したという。
©agnes varda et enfants 1994
配給:ザジフィルムズ
仕事でも家庭でもこの上なく幸せな日々を送るフランソワ(J=C・ドルオ)は、出張先で出逢ったエミリー(M=F・ボワイエ)ともごく自然に愛を深め、さらなる幸福を謳歌しようとするが…。マティスの絵画を愛したヴァルダは、マティスの色彩感覚を強く意識した画面構成で皮肉な幸せを描いた。
©RTI 1964
工場の並ぶ無機質な町で、心を病む美しい人妻(M・ヴィッティ)は夫の親友(R・ハリス)と出会い、心の隙間を埋めようとする。アントニオーニはこの初カラー作品で撮影のディ・パルマとともに色彩による主人公の心理描写に挑んだ。マティスの《赤いアトリエ》や《バラ色のアトリエ》などを思わせるシーンも見られる。
©1962 STUDIOCANAL/
SOCIETE NOUVELLE DE
CINEMATOGRAPHIE/
DINO DE LAURENTIS
CINEMATOGRAPHICA,
S.P.A. (ROME).
ALL RIGHTS RESERVED.
フェルディナン(J=P・ベルモンド)は一夜を共にしたマリアンヌ(A・カリーナ)のせいで謎の組織から追われる身となり、2人で南仏へ向かう。映画や文学に加え絵画も大胆に引用された、ポエジー溢れるヌーヴェル・ヴァーグの代表作。マティスの《ルーマニア風のブラウス》もほんの一瞬登場する。
©DR
ポーラ(A・カリーナ)は元恋人リシャールの死を巡り、謎の人物たちと遭遇しながら、真相を探る。1965年に起きたモロッコ人左翼政治家の失踪事件から着想を得、リチャード・スタークの小説『悪党パーカー/死者の遺産』を原作とした作品。マティスを想起させる色鮮やかで洗練された画面構成にも注目したい。
1955年に大規模なストライキが展開する港町ナントを舞台に、冶金工のフランソワ(R・ベリ)と男爵夫人の娘エディット(D・サンダ)の運命の恋の行方が描かれる。衣装はドゥミの実娘ロザリー・ヴァルダが担当。男爵夫人の赤い部屋や一瞬登場する《イカロス》のポスターなど、マティスの引用が見られる。
©1983 LES FILMS DU
LOSANGE- C.E.R.
COMPAGNIE ERIC ROHMER
15歳の少女を中心にひと夏の恋を描く、ロメールの“喜劇と格言劇”シリーズ第三作。衣装や海岸のシーンなど、名撮影監督アルメンドロスはロメールの指示通り、マティスの絵画に基づく画面構成を実現させた。(《ルーマニア風のブラウス》のポスターも作中に登場)。第33回ベルリン国際映画祭監督賞、国際批評家賞の受賞作。
■参考上映作品(抜粋/各3分)
『現代の映画作家シリーズ』のJean-Luc Godard ou le cinéma au défi『ジャン=リュック・ゴダール、あるいは挑戦する映画』の一部。ゴダールがポンピドゥーセンターを訪れ、《ルーマニア風のブラウス》の前で足を止め、マティスと同時代を生きた詩人アラゴンとの共通点に言及しながら、マティスについて論じている。
『現代の映画シリーズ』の「エリック・ロメール、確かな証拠」の一部。ロメール映画の鍵となるテーマ“偶然”について語られた第2部からの抜粋部分で、『海辺のポーリーヌ』において《ルーマニア風のブラウス》のイメージがどのように反映されているかが説明されている。