■堀禎一監督作品
ずるずると同棲を続ける一組の男女。男はデリヘル嬢のドライバーとして、女は弁当屋で働いているが、それぞれの職場での異性との新しい出会いにより、二人の関係は揺らぎ始める。ローキーを基調とした画面が見事な、堀禎一の野心的なデビュー作は、メインスタッフをほぼ新人で固めながら、早くも古典的な完成度をみせている。
プリント提供:国立映画アーカイブ
© 2007 松竹ブロードキャ
スティング
イケメン同士の恋愛を一人で妄想して楽しんでいるオタク女子高校生と彼女を取り巻く仲間たちの恋と友情をコミカルに描く。漫画原作の本作を経て、ライトノベルを元にしたアイドル青春映画『憐 Ren』(2008)と『魔法少女を忘れない』(2011)を撮り継ぐが、いずれも堀の卓抜な演出のもと、若い俳優陣の新鮮な演技がまぶしい。
山間の小さな町に養父の最後を看取りにきた女性が、かつて一度男女の仲になってしまった義弟と再会し、情熱を再燃させる。しかし同じ頃、町に戻って来た幼なじみへの想いも募っていき……。「天竜区」連作の経験を踏まえ自然溢れる風土を舞台に選び、夏の光の中で官能と禁忌の狭間を揺れ動く人間模様を瑞々しく描く実験作。
静岡県浜松市最北部の急峻な山の斜面に位置する過疎の村、大沢集落に取材し、村の人々の労働、生活、歴史などを彼らの声と身体を通して描き出す。山の褶曲部をなす狭小な空間に折り畳まれた記憶の層が、堀自身の撮影と編集により、丁寧に広げられ、また映画的な時空間として再構成される。これらの作業を通じて明らかになっていくのは、近代国家としての日本が明治以来、その歩みとともに、このような僻地にまで残していった爪痕である。5作品あわせると4時間以上にもなる作品群は、最短の2分(『山道商店前』)から最長の94分(『冬』)まで形式の上でもバラエティに富み、その内容も、村の特産品である製茶の作業工程(『製茶工場』)、祇園祭の日に合わせて年に一度花火を楽しむ風習(『祇園の日』)、季節ごとの風景と、古老が語る村の歴史(『夏』『冬』)、麓の交差点の信号機の定点観測(『山道商店前』)など非常に多岐にわたる。
■同時上映作品
© 1949 松竹株式会社
15年ぶりに脚本の野田高梧と組み、初めて原節子を主演に迎えた本作を劃期として、「後期小津」が始まる。鎌倉で父・周吉と二人暮らしの紀子に縁談話が持ち上がり、娘を案ずる父にも再婚話が。本作の物語構造(結婚を契機とする娘と父の別れ)と演出スタイルは、遺作『秋刀魚の味』(1962)までの主な作品で変奏されていく。
『ストロンボリ』(1950)から『火刑台上のジャンヌ・ダルク』(1954)に至るバーグマン゠ロッセリーニ作品の頂点に位置する傑作。倦怠期の夫婦が旅路の果てに離婚を決意した直後、二人の身体を奇跡が貫く。「男と女と一台の車があれば映画ができる」と喝破したゴダールを初めとする現代映画作家に今なお啓示を与え続ける作品。
©DR
パリの幽霊屋敷で共同生活する四人の演劇学校の女生徒が、政財界を揺るがす事件に巻き込まれていく。ベルリン映画祭での受賞は、ヌーヴェルヴァーグ中、最も知られざる映画作家だったリヴェットが世間で認知される契機となり、次作『美しき諍い女』(1991)の世界的成功の布石となった。謎めいた演劇教師役にビュル・オジエ。
©Deutsche Kinemathek
スカンジナヴィア半島の北端一帯は「北の冠」と呼ばれ独自の植生を誇っていた。映画はこの地域の人々の文化を捉えてゆくが、その豊かな土壌は産業化の波によって次第に浸食され、1986年のチェルノブイリ原発事故で甚大な放射能汚染を被った。地球環境をめぐる普遍的な問いを投げかける本作はストローブ゠ユイレに捧げられている。
© いせフィルム
脳性麻痺で寝たきりの大学時代の友人、遠藤滋に25年ぶりに再会した伊勢が、遠藤と介助ボランティアの若者の姿に心動かされ、彼らの日常を記録し始める。「えんとこ」と名付けられたその場所は、助けているはずの者が逆に助けられ、多くを学んでいく「学校」である。遠藤の眼差しは命の価値を穏やかにしかし鋭く問いかける。
後南朝を題材とする歴史小説を構想していた小説家の「私」は、現地で取材を進めていくうちに、案内役の友人「津村」から聞かされた身の上話に惹かれていく。ファシズム期に谷崎潤一郎によって書かれたメタフィクション小説を政治的に読み替える試み。映像と声のずれが「いま/ここ」の時空間に「かつて/よそ」を召喚する。
ジョージアの山奥に住む村人たちの、中世から続く風習や日々の労働作業を、季節の移ろいとともにリズミカルな編集で描く。『放浪の画家 ピロスマニ』(1969)などの撮影に携わった後、監督に転身し、イオセリアーニらと並んで現代ジョージア映画を担った作家(2020年12月他界)が、晩年に子息と共同制作した秀作ドキュメンタリー。
猫と暮らす初老の独身男の日常風景。大半は部屋でくつろぐ彼の姿が映されるだけだが、考え抜かれたフレームでの長回しとオフの音の使い方の妙により、日々の些事が、サスペンスフルで、ユーモラスなものへと変貌する。すべての作業を一人で行う個人映画作家ルソーの面目躍如たる作品。マルセイユ国際映画祭グランプリ受賞。
ポルトガル南部にある山岳地帯の雄大な自然の中で働く農夫たちを記録。彼らの手仕事を捉える的確な手持ち撮影と簡潔な編集が生み出すリズムが心地よい。そして辺りから聞こえてくる豊かな音響世界。独学で映画を学び、ポルトガルへと単身移住した鈴木仁篤と、彼が現地で出会ったロサーナ・トレスのコンビによる初監督作品。