短編『繭』に続いてジェイラン監督がモノクロ撮影で挑んだ初の長編。このふるさとは、明日のない棄てられた町なのか。現実への抗いを知らない老齢の帰還兵、不満の中で自堕落に彷徨する無力な青年、挫折とプライドの間でなおも葛藤し続ける中年男…。一方、日々の小さな発見に楽しみを見つける無邪気な子供たちの眼に映るのは…。1998年ベルリン国際映画祭カルガリ賞、東京国際映画祭東京シルバー賞受賞作。
上京した大都会で築き上げたクールなインテリ生活。だが男は、人との暖かな関係が築けない。孤独と自責の念に苛まれる彼のもとに、同じ村を出てきた遠縁の若者が身を寄せてくる。“人”へのせめてもの贖いにと受け入れるが、別世界の人間同士の共同生活は早々と破綻し始め、元妻とも永遠の別れが…。2003年カンヌ国際映画祭グランプリ賞受賞。
憂鬱な夏、別れの予感。魅せられ合ってともに暮らしたはずが、いつしか歯車が狂いはじめ、背を向け合った二人。消し去れない絆の跡に苦しみ、心の中に空いた穴を、女は自らの道を歩んで振り切ろうとし、男は昔の愛人へのかりそめの逃避で埋めようとする。そして再会の冬、それぞれの決意は…。ジェイラン夫妻自らが、うつろう愛の心模様を演じきった2006年カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作。
突如転がり込んだ、政治家からの身代わり犯の依頼。妻子を支える男の誠意とは裏腹に、冷えていた家族模様はさらに狂い始める。報酬の金を使い込む息子、悪戯の罠に陶酔する妻。それでも男にとって、この愚かな裏切り者たちだけが、唯一の居所であり、かけがえのない存在なのだ。破滅への窮地に追い込まれた一家を救うため、男は自らが最大の“モンキー”になる決意をする…。2008年カンヌ国際映画祭最優秀監督賞受賞作。
アナトリアの片田舎で起きた殺人事件。検事と刑事、検視医は逮捕した男を連れ、果て無く広い真夜中の大平原を、真実を突き止めるため駆け巡る。母なる大地アナトリアの大自然は、昼間の穏やかな雄大さとは裏腹に、空恐ろしさすら感じさせる夜陰の中の原風景となる。そこで男たちが見たものは何か。夜が明けて男たちが向き合ったものは何か…。2011年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。