松竹お得意の伊豆ロケーションを売りにしたメロドラマ。伊豆の港町を舞台に若い娘とその親の仇の息子が恋に落ち、娘の兄や網元(漁師の親方)ら周囲の思惑が絡んで二人の仲が引き裂かれようとするが、ある事件をきっかけに最後にお互いの誤解がとけて結ばれるというストーリー。主演の井川邦子は木下恵介作品の常連で『カルメン故郷に帰る』『二十四の瞳』『女の園』『喜びも悲しみも幾歳月』などや、小津の『麦秋』にも出演している。監督の長島豊次郎は1907年6月13日福岡県生まれ、小学校卒業後台湾に渡り台南中学を卒業後、25年松竹俳優研究所の二期生となる。俳優部に属し「牛田宏(愛称・モーちゃん)」の芸名で俳優となり、蒲田時代の勝見庸太郎(成瀬『秀子の車掌さん』でバス会社の社長役)や五所平之助の作品に出演した。36年清水宏の『ありがたうさん』に佐々木康とともに「監督補助」として参加、以後も清水宏の『花形選手』『風の中の子供』『按摩と女』『子供の四季』『サヨンの鐘』(43年、松竹と満映と台湾総督府の合作で山口淑子主演)の監督補助を務め演出の経験を積んだ。41年松竹大船の監督部に移り、戦後46年監督昇進して三本を撮った(本作『湯の町しぐれ』は最後の作品)のち、53年プロデューサーに転じ50年代から60年代にかけて松竹プログラムピクチュアの量産に貢献した。また俳優時代から笠智衆の親友でもあり、笠のマネージャーも務めていたことがある。また原作の萩原四朗は浪曲の作詞家として知られており、『祖国の花嫁』(38年、伊賀山正徳)で初めて映画での浪曲を担当し、戦前に流行した浪曲が挿入される(伊賀山正徳の『雲月の九段の母』など)いわゆる浪曲映画を数多く手掛けた。