中村小萩は中年だが色気盛りの踊りの師匠で、政財界に名を知られた近藤に娘時代から囲われて海辺の住居に一人住んでいる。海岸でふと知り合った文学青年泉太平から作家海老原の噂を聞いた小萩は、興味を抱き太平を通じて知り合いになり交際がはじまる。海老原は復員当時、町で拾って育て上げた戦災孤児の一枝と書生の櫻井と三人で暮らしていた。年頃の娘に成長した一枝は、海老原のところへ小萩が訪ねてくることに腹を立てたり、好意を持っている書生の櫻井の態度にじれたりしている。海老原は小萩との結婚に気持ちがゆらぐが、背後にある近藤の影にその心を決めかねていた。その頃、大学時代の恩師の娘柏木照子が現れ心ひかれるようになる。小萩との結婚を決意した海老原は二人で磐梯山へ逃げようとして待ち合わせするが、そのとき小萩は泉太平の起こした事件の証人に立つため警察に呼ばれていた。失意のまま一人で磐梯山に登った海老原を追いかけてきたのは照子だった。
朝日新聞に連載していた中山義秀原作小説の映画化で、脚色に新藤兼人、八木保太郎ら四人が共同執筆している。杉村春子と原節子の共演に加え、『山のかなたに』主演の角梨枝子が共演、金子信雄と丹阿彌谷津子夫妻も出演している。恋愛感情の絡んだ人間関係を叙情的にユーモアを交えた佳作であり、特に踊りの師匠役・杉村春子の演技が出色。公開当時は杉村の演技に色気にがありすぎるとして映倫から注意を受けたという。「社長」シリーズの原型になる『三等重役』(52年)の大ヒットで一躍有名になった春原政久がコメディ作家としてのその資質を顕したのは太平洋戦争突入直前の暗い時代に発表した『愛の一家』(41年)であろう。底抜けに明るいホームコメディで戦時下としては異例の映画であったが、ユーモラスで軽快な演出が評価され、春原は山中(貞雄)賞を受賞しキネマ旬報ベストテン7位に入賞した。ちなみに「社長」シリーズの監督は千葉泰樹だった。