(あらすじ)
「これは“ボストン絞殺魔”の物語である。これからご覧になる出来事や人物は事実に基づいて描かれている」。
ボストンのアパートの一室。テレビには、マーキュリー計画から帰還した宇宙飛行士たちを迎えるパレードが映っている。一人の男が、テレビに目もくれず、部屋のなかを物色している。男の足下には女の死体が横たわっている。
ディナターレ刑事が女が殺されたアパートに到着する。すでに調べをすすめていた他の刑事が彼に状況を説明する。死亡は4〜5時間前、レイプの形跡はなし。
別のアパートに郵便物が届けられる。管理人は各部屋の扉の前に手紙を置いて歩く。手紙が着くのを心待ちにしていた女たちは一斉に廊下に出てくる。だが、マイラの姿はない。不審に思った隣室の住人がマイラの部屋を訪ねる。しかし、すでにその時マイラは自室で殺されていた。
ウェルズ刑事の部屋で、記者が連続して起こった老女殺人事件について質問している。記者は犯人を性的異常者だと推測するが、ウェルズは犯人像の断定を避ける。記者は、二人の老女が共に“外科結び”と呼ばれる結び方で絞殺されている点を指摘する。一人の刑事があらわれ、ウェルズにメモを渡す。メモには第三の事件の発生が記されていた。
ディナターレは娼婦クローイに呼び出される。彼女は老女連続殺人事件の件で有力な情報を握っているという。彼女の客カーは首を絞めて性的な興奮を得る変質者であり、事件が起こった日にかぎり彼女のもとへ現れていない。ディナターレはカーのもとを訪れ、事件の起こった日の詳しい動向を報告するよう求める。
独り暮らしの老女の部屋に、配管工が点検のため訪ねてくる。老女は当然の話にとまどうが、せっかくの機会だから、と配管工を部屋に入れてしまう。
第四の殺人が起こり、警察はテレビを通じて警戒と情報の提供を市民に呼びかける。また、変質者のリストを総ざらいし、より一層取り調べを強化する。犠牲者のうちの3人と同じ看護婦の職に就く女性の部屋を覗く男、公衆電話から猥褻ないたずら電話をかける男、信号待ちをしている女性に痴漢行為をはたらいた男などが検挙される。
警察の懸命な捜査をよそに、第五の事件が発生する。後から現場に到着した刑事たちをテレビ・リポーターが待ちかまえる。刑事たちへの簡単なインタビューの後、リポーターは、犯行は4つの警察署の管轄地域に及んでおり各署ごとのバラバラな捜査の有効性に疑問が残る、とコメントする。
第六の事件が起こり、ディナターレが現場に到着する。死体にレイプの形跡はないが、首を絞められ心臓を刺されている。死体の下から扉の鍵を開ける小道具が見つかる。
ボトムリー州総長補佐が総長の前で土地訴訟に関しての州政府見解を発表する放送用原稿を読み上げている。総長はボトムリーの声を遮り、彼に新たな任務を与えるつもりがあることを伝える。総長は、絞殺魔事件には州が介入する必要があり、各署を束ね特別捜査本部を設置しボトムリーに捜査の指揮をとるよう命令する。ボトムリーは本来学者風情の自分に現場の指揮は不適任であり、また警察の権力の集中化は信条に反する、と命令を拒否する。
二人の若い黒人女性が買い物を終え、帰宅する。部屋では二人のルームメイトのライザが殺されていた。
ニュース・キャスターが第七の殺人を報道する。これまでの被害者はすべて独り暮らしの老人であったが、ライザはまだ若く、しかも二人のルームメイトと暮らしている。もはやボストン全域のいかなる女性も安心してはいられない。また、ボトムリーを本部長として絞殺魔の特別捜査本部が設置されたことも伝える。ボトムリーはインタビューに対し、現時点での本部の活動は各警察署の捜査情報を一括して整理することにあり、そして犯人は新たな殺人を犯す危険があると答える。
ディナターレが部下を引き連れミス・リッジウェーのもとを訪れる。彼女は同性愛者であり、アリスという女と同棲している。リッジウェーは、彼女の間借人のハントリーを連続殺人事件の容疑者として疑っている。彼もまた同性愛者であり、第七の殺人の前日に黒人女性を描いた絵を購入している。またアリスは、第一の事件の三日前に犯行現場近くで彼の姿を目撃したらしい。ハントリーの書棚には、サド全集やタギーについての書物が並んでいる。
ボトムリーが同性愛者のクラブでハントリーを探し出す。なぜ連絡をしてこないのかと責めるボトムリーに、ハントリーは裕福な同性愛者がいかに差別されているかと社会への不満を口にする。ハントリーは、犯行現場の近くにいたのは、“花”と呼ばれる女役の同性愛者をただ探していただけだと言う。ボトムリーは事件当日の動向を報告するよう彼に求める。別れ際、ハントリーは、リッジウェーは彼の元恋人であり、彼が女役、彼女が男役の関係だったとボトムリーに告白する。
恋人たちが帰宅する。男が女の部屋まで見送りに来たらしい。階上にいた別の男は階段を下りようとするのを踏みとどまる。恋人たちは女の部屋の扉の前で別れの言葉を交わし、男の方はその場を去る。それを見届け、階下へ降りてきた男は女の部屋の扉を叩く。彼氏だと思い、女は扉を開ける。男は女の胸元にナイフを突きつける。
道端に停車した車から女が逃げ出す。追って来た男は女を捕らえ、首を絞めるように女に覆いかぶさる。警察が駆けつけ、男を拘束する。
男が暴力をはたらいた女は、昨日の朝結婚したばかりの妻であり、彼は第八の事件の新聞記事の切り抜きとナイフを所持していた。取り調べ室で、男は知的な質問にのみ答えると言い、新聞の切り抜きは記念にもっていたと答え、自らが異常者だと認める。オセロの化粧を施したその男は以前精神病と診断された経歴がある。ボトムリーは、男を武器の不法所持と妻への暴行容疑で拘留することに決める。
女の部屋にプラムリー大佐と名乗る男が現れる。男は甘い言葉で彼女を口説き彼女の体に手を伸ばす。腰にまわした手が拳銃に触れる。女は実は警察官であり、男はおとり捜査にかかったことに気付く。隣の部屋から二人の刑事があらわれ男を尋問する。本名をライオネルという男は、自らを大佐だと偽り、女性に接近し、半年間で360人ほどの女性と関係をもったと言う。男は殺人はしていないと証言するが、刑事はさらに取り調べるすすめることにする。
第九の事件が発生する。犠牲者の名前はジューン。年齢は19歳。
ボトムリーとディナターレが空港で飛行機の到着を待っている。過去に警察に協力した実績があり科学者も注目している超能力者ハーカスが事件解決のために呼ばれたのだ。ハーカスが乗っている便の到着を待つ彼らの傍らで、二人の刑事が警察に手紙で寄せられた情報を検討している。そのなかの一通に、カトリックの保育園から送られてきた、結婚を前提に看護婦との交際を望むと記されたオロークという男からの手紙が含まれている。調査によると、オロークはベットのスプリングのうえで直に眠り、便器で体を洗う精神異常者であるらしい。
ハーカスが到着し早速、署内での透視実験に取り組み、見事に成功する。さらにハーカスは、遅刻した刑事の言い訳が嘘であることを見抜き、本当の理由を言い当てる。ハーカスは被害者の遺留品から、犯人は中肉中背、ベットのスプリングの上で睡眠をとり、ハンドバックに性的興奮を憶え、ケンブリッジで聖職者とともに生活し、便器で手を洗うような生活をしている男である、と透視する。一人の刑事がボトムリーにオロークに対する捜査令状を要求し、オロークの調査資料を渡す。電話が鳴り、十人目の犠牲者としてケンブリッジで23歳の女性が殺されたとの連絡が入る。
ボトムリーをはじめとする刑事たちがオロークの部屋を訪れる。棚の奥には多数のハンドバック、引き出しからは外科結びでつながったスカーフが発見される。また、死体の位置を示すと思われる×印が記された平面図が見つかり、ヨガの教則本で描かれた体位を示す人体図は、十人までの体に鉛筆で傷がつけられていた。ディナターレに連れられてオロークが部屋に戻ってくる。彼は過去を思い出せず、ハンドバックに性的執着を示す自分に苦しんでいるとボトムリーに告げる。ボトムリーが平面図の×印について質問すると、彼は美術の通信教育を受けており、失敗した所につけた印だと答える。ヨガの本に傷をつけたのは絵が気に入らなかったからであり、スカーフは聖母マリアのために集めていると言う。ディナターレはオロークに鍵を開ける小道具について質問する。オロークはその時初めて自分が連続殺人事件の犯人として疑われていることに気づく。ボトムリーたちは自分を助けにきたのだと思っていたらしい。彼は今まで自分以外の誰も傷つけたことはないと叫ぶ。ボトムリーはオロークを医師に任せることにする。彼はオロークを信じると他の刑事に告げる。
十番目の殺人の現場に刑事たちが訪れる。外科結びで絞殺され、レイプの形跡はない。乳房を丸く切り取られ乳首を一突きにされている。被害者は病院でバイトをしていた心理科の学生で、現場には「男性同性愛者の病因について」と題された書きかけの修士論文が残されていた。床には、かすかにススが付いていた。
テレビがケネディの葬儀の模様を中継し、男がそれを見つめている。男は席を立ち、台所仕事をする妻と二、三言葉を交わし、ボイラーの点検に行くと言って外出する。
男は車を停め、アパートの一室を訪ねる。部屋のなかで、女はケネディの国葬を中継するテレビを観ている。男は女に点検に来たと告げる。国葬の日になぜと女は訝しがるが、またの機会にと帰ろうとする男をせっかくの機会だからと引き留め部屋に入れる。男は部屋に入ると、突然女の首を絞め、女の着ているTシャツを胸から引き裂く。
第十一の事件の発生を一面で伝える新聞を道行く人がスタンドから抜き取る。男が車を走らせ、一軒のアパートの前で停車する。男はインターホン越しに、大家の依頼でやって来た塗装屋だと名乗る。部屋のなかから女は、大家から何も聞いてないと一旦は断るが、結局彼に部屋にあがるよう指示する。その時、彼はトラックの運転手から積みおろしのため車を移動してくれと頼まれる。そのため一時、その場を離れたことで男は先程話した女の部屋番号が分からなくなる。彼はドアに耳を寄せ、女の部屋を探す。男は“ダイアン・クルーニー”という名の表札がかかった扉を見つける。
男はクルーニーが着ていたワンピースを裂き、その布で彼女の両足をベッドに縛りつける。さらにクルーニーの手を縛ろうとしたとき、男はベッド脇の鏡に写った自らの顔に目を奪われる。そのすきにクルーニーは暴れ、男の右手を強く噛む。男は彼女を殴りつけ、部屋を出る。
病院に運ばれたクルーニーにボトムリーが彼女を襲った男について質問する。だが、クルーニーが思い出せることは、アイロンをかけていたこと、あとマヒしたように両手両足が動かなかったことだけだった。
男がアパートのエレヴェーター脇で身を潜めている。エレヴェーターから一人の女性が降りる。彼女が自室に戻ったのを確認して、男はその部屋へと向かう。男は手持ちの小道具で扉を開け、部屋のなかに入ろうとする。だが、部屋のなかに居た別の男に気付かれ、男はその場を逃げ出す。
男は、追いかけてくる男から街中を逃げ回るが、路上で車に弾かれ、そこを警察に逮捕される。
予審での質問に対し、男は自分が犯罪に携わった記憶はないと答える。判事たちは、その態度から彼に精神障害の疑いがあると判断し、彼を州立病院へ送致することを決定する。
病院で、クルーニーはボロ布が裂ける夢を何度も見たとボトムリーに報告する。だが、誰の手によって布が裂かれたのかは思い出せない。ボトムリーは彼女に再度催眠術を受けることをすすめる。彼女は気が安らぐ、と承知する。催眠術にかかる寸前、クルーニーは誰かの手を思いきり噛んだことを思い出す。だが、まだ相手の顔は思い出せない。
病院のエレヴェーターで、男は医師に自分は病人ではないと主張する。そこにクルーニーの面会を終えたボトムリーとディナターレが乗ってくる。男は医師に向かって、仕事で使う定規を泥棒の小道具と誤解されただけだと説明する。男と医師がエレヴェーターを下りる。男の右手の包帯が、ボトムリーとディナターレの目にとまる。ボトムリーとディナターレはエレヴェーターを下り、病院を出て、停めてあった車に向かうが、男の存在が気にかかり病院に引き返す。
医師によれば、男すなわちデサルボには、二重人格の可能性が指摘されているという。デサルボの手の傷の件で医師に連絡が入る。彼の傷は人が噛んでできたものであり、デサルボが証言する機械によるものではないとのこと。ボトムリーはデサルボの偽証を指摘するが、医師はそれを疑う。なぜなら噛まれたのは彼にとって“もう一人の自分”なのだから。デサルボの勤務先がパイン・ボイラー社であると医師から聞いたディナターレは、あの床のススはボイラーのものに違いないとボトムリーに告げる。ボトムリーはディナターレにデサルボの勤務日誌と事件の照合を命令する。
ディナターレとその部下による勤務日誌と事件の照合の結果は、全ての事件にデサルボのアリバイがないことを示すものだった。ディナターレは部下に病院の警備の強化を指示する。
デサルボに妻が面会に来る。デサルボは子供たちが自分の居所を知っているのか妻に尋ねる。妻は子供たちは何も聞かないと答える。まだ幼いからデサルボの不在に気づいてないらしい。彼女は、デサルボの精神病を不問に付すために、弁護士から家宅侵入の罪を認めることをすすめられた、と彼に話す。自らの身の潔白を信じるデサルボは、妻の言葉に怒りを顕にする。
医師によれば、デサルボは自分の無実を信じることで何とか精神のバランスをとっているらしい。デサルボの弁護人が、彼の精神が正常だと判断されないかぎり訊問はさせないとボトムリーに言う。法的有効性がない、彼の話が証言として利用できない訊問ならどうかとボトムリーが提案する。デサルボが絞殺魔だと分かり皆を安心させるために。ボトムリーの提案は医学的に問題があると医師が意見する。彼は自分が絞殺魔であることを認識した途端、廃人になるおそれがあると言う。ボトムリーは、一生を病院で過ごすことになっても死刑よりはまだ救われると答える。
ボトムリーによるデサルボの訊問が始まる。その様子をクルーニーが見学するが、彼女はデサルボに見覚えがない。ボトムリーはデサルボに、話の裏付けを取り事実と食い違っていれば君が病気だという診断を信じる、と告げる。デサルボは、事件当日、仕事をしていたと語る。その話の最中、デサルボの脳裏に一瞬自らが犯した犯罪の記憶が甦る。だが、彼自身その記憶をはっきり認識することができない。デサルボは疲れを感じ、一回目の訊問はこれで終わる。最後にボトムリーはデサルボに、退院となれば裁判にかけられ有罪となり、もし病気なら病院で検査を受けることになると念を押す。デサルボは、八方ふさがりだが、家族の安全が保証されるなら何でも協力すると答える。
ボトムリーはデサルボに宇宙飛行士が来た時のことを覚えているかと訊く。デサルボはパレードを見た記憶があると答える。彼の記憶に第一の犠牲者の姿が浮かぶ。彼は、パレードの日は、娘に人形の家の修理を約束していたので早く帰りたかったと付け加える。だが、彼には人形の家を修理している自分の姿が思い出せない。彼は息苦しさを感じ、ボトムリーは今日の訊問をここまでにする。
デサルボは医師に呼び出される。医師はデサルボに夢遊病の兆候があると告げる。彼は何も覚えていないと答える。医師は彼に訊問を止めるかどうか問いただすが、彼は首を振る。なぜ続けたいのかはわからない。けれど、何かが起こりそうで起こらないあの感じは気に入っている。だがその感覚が得られない時は、とてもいやな感じがするとデサルボは答える。デサルボはボトムリーにまだ何も話せてない気がすると医師に話す。医師は、自分の本質が分かりそれをボトムリーに話した時どうなると思うか、とデサルボに尋ねる。デサルボは、死ぬと答える。
ボトムリーはデサルボに大統領の国葬のとき何をしていたか訊く。デサルボはテレビを観て深い悲しみを感じたと答える。放送を観てるのがつらくなって外出した、何かの理由があって車を駐車し、郵便を探したとデサルボは話を続ける。その瞬間、事件の記憶がデサルボの頭のなかをよぎる。彼はショックを受け、立ち上がり、何か分からないがとにかく恐ろしい何かが見えたとボトムリーに伝える。デサルボは自分に何か異常がある点を認める。
深夜、ボトムリーは自宅の書斎で法律書を読んでいる。妻が彼に訊問の状況を尋ねる。彼は、じきデサルボは自白すると答える。彼は妻に、訊問を楽しんでいる自分がいると告白する。妻は自分を責めないようにと言葉をかける。
デサルボに妻子が面会に来る。娘がデサルボにいつ頭の病気が治るのかと聞く。友達の父親から頭の病気の話を聞いたと娘は話す。デサルボは悪事をはたらくような男じゃないと会社の社長が言っていたと、妻がデサルボに微笑みかける。突然デサルボの様子が豹変し、妻の首に手をかける。様子を見ていたディナターレが部屋に入ろうとするが、ボトムリーは彼を止める。デサルボは妻の首から手を離し、部屋の鏡を覗き込む。デサルボは正気に返り、自分の行動にショックを受ける。
ボトムリーが部屋に入る。デサルボはボトムリーに何が何だか分からないと伝える。ボトムリーが妻に触れたかと訊くと、デサルボは触れる自分を見た、脳裏に幻が、と答える。つまり自分のなかの誰かが妻を殺したがってた、と言葉を続ける。だが、それは自分じゃない。私は妻を愛している。あの別人の幻は現れては消える。元日の夕方は何をしてた、とボトムリーが訊く。チャールズ通りで仕事をして帰宅した、でも分からないとデサルボは泣き崩れる。ボトムリーはさらに追求する。先日、脳裏に浮かんだものは何だ。勇気を出して逃げずに記憶を呼び覚ませ、と。
ボトムリーは最後の殺人を再現し始める。再現を終えると部屋の角に立ち、表情を失う。
「アルバート・デサルボは目下、獄中にいるがボストン絞殺魔として裁かれてはいない。映画はここで終わるが殺人などに至る前に病を発見して治療する制度はまだ作られていない」。