八百長試合を強要されるボクサーの苦悩と反逆を描いた社会派フィルム・ノワールにして、後続のボクシング映画に多大な影響を与えた古典的傑作。独立系のエンタープライズ・プロダクションが製作し、そこに集結した才能溢れる反骨の左翼映画人たち――監督ロバート・ロッセン、脚本エイブラハム・ポロンスキー、主演ジョン・ガーフィールドが、名手ジェイムズ・ウォン・ハウの撮影を得て、アメリカの光と影をえぐりだす。
(あらすじ)
ボクシングの世界チャンピオン、チャーリー・デイビスは、明日に試合を控えて寝苦しい夜を迎えていた。夜半、チャーリーはうなされるようにして「ベン!」と叫び声を上げた。生まれ育った家で安らごうと車に飛び乗って母の住む実家に向かうが、そこには仲違いをしたフィアンセのペッグがいた。ペッグを庇う母の言葉にチャーリーはまたしても夜の街に飛び出してしまうのだった。翌日の記者会見で、対戦相手はチャーリーを挑発するような言葉を吐く。それに逆上して、つい殴ってしまうチャーリー。控室で佇んでいると、いつものように言い渡される八百長試合の取引。「全てがどんどん悪くなっていく・落ちていく…」チャーリーの口から呟きが漏れる。
とあるナイトクラブで、華やかなパーティーが行われている。アマチュア・チャンピオンを勝ち取った若きチャーリーの祝賀会だ。会場には本年度のミスに選ばれた美女、ペッグの姿も見える。彼女は画家を目指して美術学校に通う学生である。プロのボクサーとして成功したいと願うチャーリーと、彼同様に夢を追って生きているペッグはお互いに魅かれ合っていくのだった。その翌日、チャーリーの友人ショーティーはビリヤード場に凄腕マネージャー、クインがきているのを見つけた。彼に何とかチャーリーを売り込もうとするのが、結局すげなく断られてしまう。一方チャーリーの母親も、お金のために試合する事に猛反対をしていた。息子と母親の間に立って、仲裁に入った父。しかし、チャーリーが両親の営むスラム街の駄菓子屋を出た途端、店に爆弾が投げ込まれ、父は亡くなってしまう。
数日後ビリヤード場で、チャーリーは夕食に招待したペッグが来るのを待っていた。ショーティはわざとケンカを起こし、同じ場にいたクインにチャーリーの実力を見せるのだった。
身内だけのささやかな夕食は、和やかに運んだ。苦労して育ったが、明るく生きるペッグをすっかり気に入る母。そこへ突然、慈善団体の役員が訪ねてきた。実は母が援助金の申請をしていたのだった。ユダヤ人で、貧乏な暮らしをしてきたという屈辱を思い知らされ、耐えられなくなったチャーリーは怒って部屋を飛び出した。彼を追ってきたペッグは、屋上で彼に自分の愛を告白し、二人はお互いの気持ちを交わし合うのだった。その後、チャーリーはアマチュアボクサーとして試合を重ね、勝ち進む。そんなある日、チャーリーのもとへクインがスカウトにやってきた。それからは念願のプロボクサーとして活躍していく。
実力の世界を勝ち進み、チャーリーは豪華な家をもつほどに大金を手に入れた。国中を飛び回って試合をこなし、久しぶりにペッグの元へと帰ってきたチャーリーだったが、彼は完全に金に溺れていた。そんなチャーリーの態度に疑問を持ち始めたショーティーは、自分の忠告を一切無視して聞き入れないチャーリーの態度を心配していた。結婚すればチャーリーも良い方向へと向かうかもしれない、と考えたショーティーはペッグに彼との結婚を強くすすめるのだった。
現世界チャンピオンのタイトルを保持するベンは、すでに引退寸前だった。体を壊して、リングに上がれば命の保証はないという状態だったが、プロモーターのロバーツは挑戦者にうまく取り計らうからと試合に出場することを承諾させる。一方、チャーリーは試合の事など知らずに、ペッグとの婚約を母に報告しているところだ。そこへ、クインの紹介でロバーツがやってきた。ロバーツを信用できないとみたショーティーは部屋を出ていく。ロバーツはチャーリーにチャンピオンシップを懸けた試合を持ちかけた。条件はチャンピオンをKOすること、分け前は半分。八百長だということを知らないチャーリーは素直に喜び、早速練習を開始する。もちろん結婚は延期する、というチャーリーにペッグは諦めたように承知した。そんなチャーリーに、金だけが目当てでクインの情婦アリスが近づいていく。
試合が開始された。一方的な試合運びでベンをKOしたチャーリーはチャンピオンを獲得した。しかし、重傷を負ったベンを見て、うろたえた。ロバーツの汚いやり口を知ったショーティーはチャーリーを罵るが、思わずカッとなったチャーリーに倒されてしまう。ふらふらになりながら彼の元を去るショーティーは、路上で車に弾かれて死んだ。これを機に引退したらどうか、と勧めるペッグ。しかし今更、昔の貧しい生活に戻りたくない。そう告げるチャーリーに愛想をつかし、ペッグは静かに去っていく。
相変わらず八百長試合で勝ち続けて金を儲けるチャーリーだったが、裏腹に孤独感が募っていく。ある日、彼は自分が倒した元チャンピオン、ベンの元を訪ねた。自分のコーチをしてほしい、信頼できる人間と組みたい、そういって頼み込むチャーリーの真摯な態度に、ベンは申し出を受け入れるのだった。
世界チャンピオンの防衛戦が近づいていた。今回も自分が勝てると思っていたチャーリーに、ロバーツは「今度の試合は対戦相手のマーロウのものだ」と冷たく言い放つ。マーロウが勝てばもっと金が入ってくる、と八百長することを言い渡されたチャーリーは愕然とながらも、自ら挑戦者に持ち金全てをつぎ込んで賭に加わるのだった。
しかし不安に駆られたチャーリーは、今一度ペッグに安らぎを求めて会いにゆく。全てを許し、再び愛し合う二人。母が二人の結婚資金を貯めていること、そして心から結婚を待ち望んでいることを知ったチャーリーは、ペッグと共に母の待つ家へと向かう。しかし、賭のために母から借金をしようと話すうちにチャーリーは今度の試合が八百長であることをつい口に出してしまう。チャーリーがいまだに金の亡者だと知って、ペッグと母はまたしても愕然となる。
その晩、練習場でうなだれているチャーリーに、ベンは「試合を売るようなことだけはしないでくれ」と頼む。そして練習場へやってきたロバーツに対して怒りを抑えることができず、ついに「俺はチャンピオンだ!」と絶叫してリング上で息を引き取った。
ついに試合が開始された。大勢の観客の中には、チャーリーの姿を見守るペッグの姿もあった。相手に勝たせるために手出しができない。その守りの態勢に観客からはブーイングが起こり始める。強烈なパンチを食らい、ふらふらになっていくチャーリー。勝負はすでに挑戦者のものであるかのように見えた。しかし、チャーリーは突然攻撃を開始した。猛然とした反撃に相手はノックダウンし、リングに沈んだ。ボクサーとして、そして人間としての本当のあり方に目覚めたチャーリーは、駆け寄ってきたペッグと共にリングを去っていくのだった。