裕福な家に生まれたマグダレーナは、恋人がいるにもかかわらず、別の男の子供を出産する。世間体を気にした父親は、生まれた子供を人知れず貧しい女性に養子に出してしまう。子供の行方を掴めぬまま、その辛い過去を恋人に告白しようとするマグダレーナであったが、伯母がそれを阻む。第二次世界大戦以前に流行したサルスエラ映画と呼ばれるミュージカルであり、ほぼ完全な形で現存する最古のフィリピン映画。
欧州で勉強を終えて帰国したイバラは、父が反逆罪で獄死したことを知り、真相を探ろうとする。黒幕は教会の権威ダーマソ神父であったが、やがてイバラ自身も彼に狙われることとなる。国民的英雄ホセ・リサールの処女長編『ノリ・メ・タンヘレ』が原作。リサール生誕百周年を記念し、スペイン留学の経験や、医師でありながらも芸術に身を献げていることなど、リサールと共通点を持つヘラルド・デ・レオンが監督した。
母親とともにスラム街に住む美しい娘、インシアン。貧乏ながらもつつましく生活していた母娘であったが、母親の若い恋人ダドが家へ転がり込んでくると事態は一変。インシアンに目をつけたダドは、ある晩彼女を力づくで犯してしまう。ダドに惚れ込んだ母親はインシアンの訴えに耳を貸さず、インシアンを罵倒する。フィリピンの巨匠リノ・ブロッカが不動の地位を築いた本作を、フィリピン映画開発審議会による修復版で上映する。
元娼婦のヴィルジー、息子で麻薬依存症の歌手アレックス、アレックスと同棲するゲイのマナイ、シンナー中毒のヴァネッサ、タクシー運転手で女性を渡り歩くペドロ、看護師と偽り売春するアデなど、夜のマニラでたくましく生きる人々の群像劇。時のファーストレディ、イメルダ・マルコスの逆鱗に触れ、数カ所のカットを余儀なくされた上、『マニラ・バイ・ナイト』から『シティー・アフター・ダーク』へと改題させられた問題作。
大学生のシドは、名誉ある友愛会「アルファ・カッパ・オメガ」に入会すべく、拷問にも近い厳しい試練を受ける。精神的にも肉体的にも痛めつけられる過程で、当初15人いた希望者が半年後には半数以下まで激減する。ともに困難を克服する中で、残った7人には連帯が生まれるが、さらなる苦難が彼らを襲う。本作に含まれる過激な内容は、当時のフィリピン社会に大きな衝撃を与えた。第二黄金期を牽引したマイク・デ・レオンの真骨頂。
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小さい村に住む平凡な女エルサは、ある日聖母マリアを見たと言い出す。当初は誰も相手にしなかったが、次第に噂が広まり、病人や障害者が彼女の元を訪れる。やがてそんな彼女の評判を利用しようとする者まで現れ、村全体が混乱してゆく。フィリピンの有名女優ノラ・オーノールの最高傑作かつイシュマエル・ベルナールの代表作とされる本作は、CNNのアジア映画オールタイムベストに唯一選ばれたフィリピン映画でもある。
シスター・ステラ・Lはある日、地元の工場で起こった労働者によるストライキに巻き込まれたことで、彼らを取り巻く問題を知ることとなる。最初は信仰の重要性を説いていたシスター・ステラだったが、やがて彼らに同情し、体制への抗議活動に積極的に関わってゆく。前年に起こったニノイ・アキノ元議員暗殺事件が発端となって露呈された、尊大なマルコス政権や抑圧的な軍部への反発が、マイク・デ・レオンによって凝縮された一本。
1930年代を舞台に、マニラから結婚し田舎へ戻ってきた夫婦、ナルシンとプリンに降りかかる悲劇を描く。プリンに亡き妻の面影を見たナルシンの父親はプリンに関係を迫り、それに気づいたナルシンは逆上して父親を殺してしまう。ナルシンは殺人罪で投獄され、プリンには妊娠が発覚する。フィリピンの女性監督であり、卓越したセンスにより数々のヒット作を生み出してきたマリルー・ディアス=アバヤの初期監督作品。