■エルケ・マーヘーファー&ミハイル・リロフ監督作品
キューバ南東部のヤテラスを中心に撮影された本作品は、西欧人によってこの国が植民地支配された際、アフリカ人奴隷とともに連れて来られた家畜たちの姿を多く映し出している。我々はカメラを介して学ぶのだ。植民地支配から脱した後も、この国に外来種としての家畜が残存し、アフリカ由来の宗教が息づくことの持つ意味を。
本作品の書籍版に『千のプラトー』からの引用が多数なされていることからも明らかなように、ドゥルーズ=ガタリの思想の影響の下、京都の綾部市と京丹後市の「里山」で撮影された作品。原生林に人の手が加わることを通じて生み出された「里山」は、ヒトと非ヒト間に存在する「膜」にほかならない。カメラがとらえた「膜」を観察することにより、我々は自然物と人工物の対立から解放されていく。
キビ、イタドリ、スギ、ヒノキといった日本の植物は、人間の経済上の都合に応じて、時に丁寧に栽培され、時に野生のまま放置されてきた。これらの植物や土に対し、ピンボケを恐れずに、接近と離反をくり返す本作品のカメラの動きは、モノカルチャー経済を批判する運動であると同時に、生の多様性を礼賛する運動でもある。
■ジャン=マリー・ストローブ&ダニエル・ユイレ監督作品
ロワール川に浮かぶコトン島一帯での撮影の直前にユイレが亡くなったため、ストローブは一人で撮影に臨むことになった。川面に映る木々の影、ヤドリギ、鉄塔、ボートのエンジン音、羽ばたく鳥、雲、十字架、1944年8月にロワール川周辺で起こったナチス・ドイツによる住民の虐殺を語る声。一切が対等な仕方で並置され、ヒエラルキーは存在しない。ストローブ=ユイレ最後の作品。
パリを離れ、レマン湖岸のロールで暮らすストローブは、この街を舞台にしたジャニーヌ・マサールの小説『湖の人びと』を基に、ボートからの撮影が中心となる対独レジスタンス映画を作った。ストローブ=ユイレ時代、乗り物からの大胆な撮影を実践してきた彼が、単独監督として同様の撮影を行うのは、本作品が初めてである。