■古典映画編
都会で財を成そうと、ケンタッキーの片田舎に両親と恋人を残して去った青年。数年後、彼は金持ちになって戻ってくるが、生活に困窮した父親は、金のために新しくやってきた "よそ者 "の殺害を計画する……。長い間、失われた映画だと考えられていたが、1965年にソ連のアーカイブで発見され、MoMAに寄贈された。
純朴な田舎娘スージーは、愛する青年の出世のために、自らの幸せを犠牲にするが、故郷に戻ってきた彼は別の女性と結婚してしまう。やがて妻を亡くした彼は、二度と結婚しないと誓うのだが……。幼なじみの男女の恋愛の紆余曲折を詩情豊かに描く、ギッシュとハーロン主演、グリフィス監督の「田園ロマンスもの」の代表作。
裕福な縁者を頼ってボストンに来た貧しい娘が、遊び人に騙され捨てられる。度重なる不幸に心身ともに疲れ果てた彼女は、やがて純朴な青年と出会い恋に落ちるが……。流氷の上で失神したリリアン・ギッシュが救出されるシーンでの並行編集は、グリフィス作品を特徴づける「ラスト・ミニッツ・レスキュー」の代表例である。
フランク・ノリスの小説「マクティーグ(死の谷)」を映画化した傑作。無免許の歯科医と守銭奴の妻との失敗に終わった壮絶な結婚生活を描く。シュトロハイムの飽くなきリアリズムの追求は50度近い灼熱地獄と化したデスバレーでのロケへと撮影隊を導いた。現行版はタルバーグの介入により短縮された版の更に半分以下の長さ。
ニューヨーク港に上陸した火夫ビルは、波止場から身を投げた若い女メイを救う。やがて二人は愛し合うようになるが…。大成功を収めた「暗黒街」に続いてジョージ・パンクロフト主演で撮られたこのメロドラマは、ハリウッドでのスタンバーグの地位を確固たるものにした。島津保次郎の初トーキー「上陸第一歩」は本作の翻案。
16世紀、英国王ヘンリー八世に見初められ、侍女から第二妃となり、姦通罪で斬首にされたアン・ブーリンの悲劇。『パッション』同様、国王夫妻の私生活を中心とした「鍵穴から覗いた歴史」を描くこのスペクタクル史劇でも、マックス・ラインハルト譲りのルビッチの群衆演出の冴えを戴冠式の場面で見ることができる。
牡蠣の商売で財を成した大富豪が、愛娘の結婚相手を探す。結婚斡旋業者が紹介したのは、美男の没落貴族だった。しかし代理で屋敷に出かけた召使が、そのまま彼女と結婚式を挙げてしまう…。ルビッチが独自のコメディ・スタイルを確立した作品。ヒロインのオッシー・オスヴァルダはドイツ時代のルビッチ作品のミューズ。
おじの財産を相続するために結婚する羽目になった若者の災難を描く。女嫌いの彼は、その場しのぎに人形職人に花嫁代わりの人形を作らせるが、職人の娘が人形になりすましていた。ルビッチ本人が登場し模型のセットを組み立て人形を配する冒頭がユニーク。後のハリウッド時代の艶笑喜劇を予告するようなドイツ時代の傑作。
1920年代末のウクライナの農村。若者たちはトラクターを導入し農業の集団化を進めようとするが、富農たちはこれを妨害し、ついには若者たちのリーダーを殺してしまう。党の御用批評家からは「形式主義」との批判を受けたが、しかしサイレント期ソヴィエト映画の最高峰の一つであり、生と死をめぐる美しい哲学的抒情詩である。
貧農フムィリの「幸福」の探求を通じて、農村における新旧勢力の対立を描いた寓話的コメディ。煽動宣伝映画の枠に収まらない綺想にあふれ、「最後のボリシェヴィキ」・メドヴェトキンの代表作となった。監督は1930年代初め、煽動列車をヒントに現像・編集・上映・電源設備などを備えた「映画列車」を組織したりもした。
第一次ロシア革命二十周年記念映画として製作。日露戦争中の1905年に起きた戦艦ポチョムキンの水兵たちの反乱と、それに呼応したオデッサ市民の虐殺を描く。集団を主人公とし、モンタージュ技法を駆使したエイゼンシュテインの不滅の傑作。「オデッサの階段」の虐殺シーンは「映画史上、最も有名な6分間」とされる。
「マイゼル版」は、1926年のドイツ公開時にエトムント・マイゼルが作曲した楽譜が1980年代に発見されたため、その音楽を付けて、映画史家エンノ・パラタスの監修によって2005年に完成された最新復元版。
「クリューコフ版」は、助監督グレゴリー・アレクサンドロフが、ドイツから買い戻した検閲済プリントの冒頭と結末にナレーションを入れ、ニコライ・クリューコフの音楽を付し「サウンド版」として1950年に公開。
「ショスタコーヴィッチ版」は、映画史家ナウム・クレイマンが顧問となり、各国から集めたプリントを元に復元したオリジナルに近い「完全版」に、ショスタコーヴィッチの既存の交響曲を付けて、 1976年に公開。
■現代映画編
1980年代後半、第一次インティファーダ(民衆蜂起)に沸き立つイスラエル占領地を舞台に、第三次中東戦争によって引き離されたパレスチナ人の恋人たちの約二十年ぶりの再会というフィクションを織り込み、パレスチナの歴史と現状を知的な距離をもって描きだした意欲作。山形国際ドキュメンタリー映画祭特別賞受賞。
©Agav Films
東エルサレムの小さな通り。前世紀末にドイツ人が建てた家は、1948年までアラブ人が住んでいたが、イスラエル建国とともに没収され、現在はさまざまな出自を持つユダヤ人が居を構えている。長編デビュー作の『家』で撮影したこの場所を再訪したギタイは、考古学的な記憶の戦場であるエルサレムの姿を容赦なく暴き出している。
五十代の聾盲女性を追ったヘルツォークの初期ドキュメンタリー。幼少期の怪我のため視力と聴力を失った彼女は、触覚を使ったコミュニケーションを学ぶことで心身の強さを取り戻し、他の聾盲者を支援すると共に、この障害が深い孤独感をもたらすことを伝える。キャメラは彼女の活動を忍耐強く、かつ注意深く見つめる。
1984年秋、アラバマ聾盲学校で行った撮影の結果、一本の映画にまとめることは不可能だと判断したワイズマンは、約九時間の長編としても成立する四部作として「視覚障害と聴覚障害」シリーズを完成させた。第一部となる本作は、視力をもたない子供たちの盲学校での日常を、技法的な編集を極力排して丹念に描き出していく。
©1999 WOWOW /
バンダイビジュアル
『2/デュオ』で魅力的な存在感を見せた渡辺真起子に三浦友和を組ませ、年の離れた男女の同居を描く。台詞が書かれた脚本は存在しないが、二人の履歴書は綿密に作られた。これは即興演出ではない。むしろ、その対極である。俳優の自由が最大に尊重され、撮影所育ちの三浦は戸惑ったが、場の空気感が見事に掬い取られた。
*国立映画アーカイブ所蔵作品
©2001 WOWOW /
バンダイビジュアル
慎ましい生活を送る女性と裕福な起業家が親密な仲になる。一緒に暮らそうという男の申し出を断った彼女は、階下に住む青年と交際し始めるが……。万田邦敏の初長篇作。パートナーの万田珠実の脚本を元に、熾烈な対話劇が、厳密な演出によって紡ぎ出される。森口瑤子が遂に崩れ落ちる瞬間は息を呑む。カンヌ映画祭で二冠獲得。
16世紀末、ローマから帰国した天正遣欧使節の四少年は、禁教令により棄教を迫られる。現代、少年使節が主題のオペラを欧州に紹介するため、自身が幼少期を過ごした長崎を再訪したEUの文化官は、そこから原爆の痕跡が消え失せている点に気付く。これらの物語がフィクションとドキュメンタリーを混在させつつ語られる。
©2017
『ポルトの恋人たち』製作委員会
18世紀、リスボン大震災後のポルトガル。奴隷貿易主の使用人である日本人青年は、現地人の女中と心を通わせるが、理不尽な雇い主に銃殺されてしまう。21世紀、東京五輪後の浜松。自動車工場でリストラ宣告された日系ブラジル人は、ポルトガル人の妻を残して自死を選ぶ……。二部構成で主要キャスト三人が二役を演じる。