映画的技巧を駆使して語られる虚構の悲恋物語。背景にあるカースト制と社会の右傾化が浮かび上がる。2019年アジア千波万波で『夏が語ること』が上映され、今年のカンヌ映画祭で「All We Imagine as Light」がグランプリを受賞した新鋭が描く、インドの光と影。
YIDFF2023 ロバート&フランシス・フラハティ賞
中国文明の起源と共通の伝承で繋がる中国南東部の村々で1993〜94年に撮影したHi8ビデオ映像を、「調和(ハーモニー)」をキーワードに編み直す。古代の歌謡、水墨画や自叙伝そして哲学的な考察を語る複数の「私」の声が重なり、何が、どのように消えてゆこうとしているのか、と見るものを新たな思考へ誘う。
1977年にマリ人移民労働者らによって設立された農業共同体ソマンキディ・クラ。パリの路上とソマンキディ村で記録されてきた膨大なアーカイブ素材が、その抵抗・帰還運動をよみがえらせ、アフリカの人々と大地が経験してきた近現代史を見つめる。
YIDFF優秀作『祖国─イラク零年』監督新作。画家である妻とレバノンにある紫の家で暮らしたコロナ禍の日常を描く。猫たちと、絵を描き続 ける静かな日々。テレビには小津やタルコフスキーらの映画の一場面。崩壊する世界とそこに芸術が存在する意義に迫る。
カルパチア山脈にあるウクライナ ストゥジツヤ村に暮らす3人の女性たち。生物学者、郵便局員、農家……。この地に留まるか他国へ去るか選択を迫られる村で、彼女たちの確固とした生の営みが、移ろいゆく季節とともに重層的に編み上げられる。
芸術の表舞台から姿を消した画家イサベル・サンタロ。姪である監督はその謎に迫ろうと老いた彼女にカメラを向けるがうまくいかない。 撮る者と撮られる者の立場が逆転するスリリングな光景が見るものの心を捉える秀作。
YIDFF2023 山形市長賞
『100人の子供たちが列車を待っている』監督の新作。先住民族マプチェの土地アラウカニアに鉄道技師として赴任したある男の日記。男に扮した役者を中心に撮影隊がフレームの内外を自在に往来しつつ、植民地化の歴史と今も続く抑圧を描きだす。本作で監督は二度目の優秀賞を受賞。
YIDFF2023 優秀賞
作者が設定したルールに則り15年にわたり撮影、編集されたショットの集積。「未知を発見する装置」としての映像メディアが、見る者の記憶を呼び覚まし、意味から解き放ち、新たに記憶を紡ぐ。
2016年の政府と反政府左翼ゲリラ間の和平合意は儚く、未だ確固たる将来は見えないコロンビアのメデジン。監督は同世代のクイア・コミュニティの友人たちと、夢、恐怖への葛藤を回想し、ボーダレスでジェンダーレスなトランス・フィルムの制作を試みる。
ドイツの義肢製造工場、南フランスの高級革手袋縫製アトリエ、トルコのジーンズ工場という異なる3つの工場での製造工程を「持続的観察」の手法によって徹底的に記録する実験的ドキュメンタリー。見ることの陶酔へと誘いながら手仕事への思考を問いかける。
「47KM」と呼ばれる中国山間部の村を舞台としたヤマガタ人気作の10作目。コロナ禍でも四季を通じて農作業が行われ、子どもたちが監督と一緒に体操をしたり、映画を見たり、日々の暮らしに忙しく、カメラに向ける表情は和やかだ。
YIDFF2023 優秀賞
アルゼンチン・コルドバの労働者と学生を運ぶバスが行き交うターミナル。人々の姿、流れる光を捉えた繊細なショットに、愛についての追憶のことばが重なる。絶えず何かが現れ、消えていくその場所にある痕跡は、人々の痛みであり、恐怖であり、希望を映しだす。
イスラエル軍によりパレスティナの土地の接収が続くナザレの村。夜間外出禁止令が敷かれるなか村長は息子の結婚式を行うため軍政官とある取引をするが、そのことが思わぬ事態を招く。のちに山形の常連となる監督による初長編劇映画。87年カンヌ映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞。
1947年に採択されたパレスティナ分割案・国連総会決議181号。故郷へ戻った二人の監督が、現存しないこの境界線を「ルート181」と名づけて 辿る。人々との偶然の出会いによって照射される、土地と人々の分断、暴力と収奪、記憶の改ざん、抑圧と差別。
YIDFF2005 山形市長賞
YIDFF2023 アジア千波万波 小川紳介賞
檻のような部屋の中で、希望の見えない未来に打ちひしがれながらも、ヤンゴンの若者たちは絵を描き、楽器を弾き、叫ぶ『負け戦でも』。ひとりの青年の心を諦めの気持ちが支配しだした時、友人のひと言でカメラをまわし始めた『鳥が飛び立つとき』と併映。
変革の波が起きるかに思えた2011年。シリアからカイロに身を寄せた監督は未完の映画─故郷ホムスの映画の原体験、若き日のシネクラブ─を記憶で再構築しながら、放置されたカイロの映画館の中へと分け入る。
YIDFF2023 アジア千波万波 奨励賞
幻影のように、失ったものたちを語る声がひっそりと聞こえてくる。ベイルートに住まう人たちが営む日常のあちらこちらに、死者の思念が宿る『ベイルートの失われた心と夢』。春の陽光に誘われるように小さな旅をする『確かめたい春の出会い』と併映。
アスペルガー症候群の娘エロディとの12年。時に根気良く寄り添い、隔てられては結び止めた母と娘のつながり。突然とめどなく溢れ出してしまうむきだしの感情を受け止め、創作のエネルギーと自立への歩みを見つめる。
YIDFF2023 日本映画監督協会賞
インド・ミャンマー国境にあるナガの村トラに、電気がやってくる。しかし反政府勢力による経済封鎖で工事は難航し、村人たちは電気がないクリスマスを祝い続ける。やっと灯った光は、村人たちの人生をどう変えるのか?
10代の日記や写真を手繰るルオルオ。家事をこなしながら、父や孫の世話を焼きながら、日記のようにカメラを回し続ける。新型コロナウイルスへの怖れで引きこもっていた家には、家族への愛情と表現の喜びが溢れだす。
小川のせせらぎが詩的な情感をあおって夜の散歩に誘う。青い月明かりがほのかに照らす坂道の、どこにも人影は見つけられない。しかし冷ややかで時が止まったかのような夜の情景は、昼の熱気や季節の移ろいを逆照射する。
オバマ政権時の政策で、「不法移民」状態にケリがつくはずだった。こうなった経緯をさかのぼるように、監督は祖母の故郷の記憶から旅を始める。アメリカの、フィリピンの、その先に向かう、極私的ロード・ムービー。
2020年4月。家族で過ごす日々の中にある小さな煌めきは、生と死、受け継がれていく命の愛おしさへと辿り着く。気ままな旅のシネ・エッセイ『旅のあとの記録』、元兵士の記憶を手がかりに紡がれる映画詩『影の由来』と併映。
「未来への映画便」より、YIDFFの常連だった、ヨハン・ファン・デル・コイケン監督のヘルマン・スローブとベッピーというふたりの子供を主人公にした初期2作を上映。不自由な世界の中で生の輝きを放つ子供たちを描く珠玉の短編。
火事で家族を失った男が雪国の少女との出会いによって心が癒されていく…。山形県大蔵村の肘折温泉で全編ロケ、地元住民も多数出演した幻の劇映画。肘折歴史研究会と有志の捜索で40年ぶりに地元でも上映され、大反響を呼んだ。同監督の『雪の肘折温泉』(76年/9分)も併映。
グローバルに活動する「帝国」の支配下のディストピア。「役立たず」とみなされ社会的弱者である追放者たちが、次第に現代における俗講僧のように声を発し、現実と「素晴らしい未来」という幻想を解体していく。アート界でも活躍する、コンペ審査員、陳界仁の新作映像作品。
ある映画監督が、かつて羊飼いたちが牧草地に行くために使った横断ルートを辿ろうと思い立つ。41年間使われなかったスーパー8のカメラは、もはや音を拾わない。無言のカメラは、ロバとともに、思い出と疑問符と沈黙に満ちた旅の主人公となる。コンペ審査員作品。
「Double Shadows/二重の影」より1965年から1983年にかけて南仏のイエールで開催され、忘れ去られた伝説の映画祭「若き映画」についてのアーカイブ・ドキュメンタリーを上映。シャンタル・アケルマン、レオス・カラックスなどを上映し映画史に刻んだが、創設の理念を見失い、カンヌの監督週間に押されながら突然姿を消した。