バレンシア地方で、古代エジプト時代から食用にされてきたタイガーナッツを代々生産してきた農家。家族で農作業を続ける姿を1年間丁寧に追った。時代の流れに抗いながら土を耕し続ける農家としての矜恃が、土地の歴史とともに伝わってくる。
YIDFF2021 山形市長賞
8年前に、自身が被ったレイプ事件は加害者の容疑否認のまま不起訴となり、被害者の心身をさらに傷つけるような警察や医療機関に対する不信感だけが残された。映画学校の学生だった監督は、事件後も日記のようにカメラを廻す。性暴力を受けた心身をどう生きるのか、出口の見えない旅を始めた監督の到着地に見る者もともに立ち会う。
YIDFF2021 優秀賞
コロンブスのアメリカ大陸到達から500年を記念し、オリンピック、万博が開催された1992年のスペイン。祭典の裏で、社会はグローバル化の波を受け経済危機に陥った。当時デモに参加した労働者たちの語りと、生活に喘ぐ現代の若者たちの会話とが交錯する煙たいバルを撮影。緻密に構成された2分割画面に争議の生々しいアーカイヴ映像が挿入され、時を行き交いながら国家の成功神話に抗う。
家畜化された牛の先祖にあたる、絶滅した野生種オーロックス。この種を交配によって復活させようする試みが行われてきた。1920年代のドイツで復元の研究を行った動物学者の著作をたどりながら、新たな交配の試みや遺伝子研究の様子を追い、監督は新たな神話を語ろうとする。
核戦争のイメージにさいなまれてきた映画監督が、家族を連れ、アメリカで核実験が行われた場所をめぐる。その想像力は、やがて長崎や福島にも及ぶ。核実験のアーカイヴ映像とサン・ラ・アーケストラの奏でる「ニュークリア・ウォー」が挿入され、人類と核の歴史、反復される暴力が問い直される。
「踊り子」と呼ばれるストリップ劇場のダンサーは各地を巡り、楽屋で寝泊まりしながら10日ごとに次の土地へと移動する。舞台の袖で見せる素顔、楽屋での日常、ストリップに託す思い、家族への愛情、すべてが一期一会の風景の一部として記録される。『Odoriko』(2020)の国際共同製作版。
ヤマガタでお馴染みの「47KM」と呼ばれる中国山間部の小さな村を舞台とした連作の最新作。撮影を開始してから10年目を迎えるこの冬、村には新しい建物がつくられようとしていた。子どもたちはその「青い家」がどんなふうになったらいいかを想像し、絵に描く。少女たちはカメラを廻し、自分たちの村の姿を記録し始める。
YIDFF2021コンペ作品『ヌード・アット・ハート』のディレクターズ・カット版を特別上映。本作では踊り子たちの身体や身振り、彼女たちが過ごすかけがえのない時間の流れに、より肉薄する。2020年にフランスのドキュメンタリー映画祭「シネマ・デュ・レエル」でグランプリに次ぐ「スキャム国際賞」と、仏文化省が授与する「文化無形遺産賞」をW受賞。
監督が長期間にわたって撮影を続ける中国山間部の小さな村。革命に身を投じた半生を語る85歳の老人と、彼の追憶を似顔絵に写し取る少女。少女は村の老人たちを訪ね、個人史をしたためていく。『自画像』(YIDFF2021)監督作品。
YIDFF2019上映作品
監督の曾祖父が1946年に起こしたアラバマ州での黒人男性射殺事件。監督は新聞記事を基に当時の状況を掘り起こし、家族の闇と事件の背後にある集団的差別意識の実相にサスペンスタッチで迫る。『核家族』(YIDFF2021)監督作品。
YIDFF2019上映作品
ムラートワ監督の叙情的な初期代表作。非教条的なため、旧ソ連当局に封印され、87年に初公開。技術翻訳者のシングルマザーの16歳の息子が彼女に反発し、別れた父との新生活を夢見るが、母は煩悶する。母と息子の複雑な愛情を描く。
YIDFF93上映作品
抑圧された現実の中で人格が崩壊し、正常な人間が欠陥のある人間へと変貌していく様を描いた2つの物語。ペレストロイカ興隆期のソビエト社会のあり方を描いた荒涼としたフレスコ画で、世界映画史に残る傑作。日本では、約30年ぶりの上映。
2020年1月、劇映画撮影のために武漢に入った監督とクルー。都市封鎖に遭遇した彼らは路上で撮影を始め、無料で物資提供するボランティア活動に携わり、奔走する。新型コロナウイルス感染症により根本から変わってしまった日常を照射する。
福島の現在と記憶を描くオムニバス。オーストリアの撮影クルー、日本と韓国のふたりの写真家を福島で追う『自然と兆候/4つの詩から』。記憶喪失の男と女の会話『Memories』。水俣、阿賀野、四日市、富山、相馬を旅する『カツテノミライ』。
震災から1年後の南三陸町。被災した町に残った一軒のペンション。そこでお菓子づくりを再開したパティシエと、彼の夢に共感し、集まったボランティアたち。支援する・される関係性から生じる機微を見つめる。
「宮城の方々と震災10年という時間について考える機会を作りたい」と、「みやぎシネマクラドル」の4人が『冬歩き』『あいまいな喪失』『微力は無力ではない~ある災害ボランティアの記録』『海と石灰』からなるオムニバス映画を制作。
カメラを前に「おぼえていること」を語る10人の登場人物。戦前から現在まで、彼らが生まれ、育ち、働き、新しく家族を持ち、いまにいたる、それぞれの記憶の断片が鳥取の土地の記憶を伴い1本の映画となる。
建築家は誰のために働くべきか、建築は社会の中でどのような役割を果たすべきか──末期癌と告知された建築家チョン・ギヨンに残された時間は少ないが、彼は止むことなく人々と対話を続ける。『子猫をお願い』チョン・ジェウン監督、初のドキュメンタリー。
パリ郊外の高校に通う10代の若者たちがそれぞれの家庭環境や両親との関係、初恋、将来の夢を語り合う。孤独であること、そしてその状況を誰かと共有できること。不安や憧れ、悲しみや情熱といった感情の発見。