舞台はポーランドの小さな、孤立した村。屑鉄の回収業者が行方不明になったのをきっかけに、今まで均衡をたもっていた共同体は次第に暴力と犯罪性に染まり崩壊していく様子を静かに捉えてゆく。アンカとヴィルヘルムのサスナル夫妻による初の長編映画。
造形美術を学んだ監督が、サスペンスにあふれ、ほとんど台詞のない、ヨーロッパ社会の崩壊のまっただ中に置かれた日常の単調と恐怖の力強い演出を見せる。(クリス・フジワラ)
©DR Lobster
ヒョンスとジュヒは共働きでそれほど裕福でもないが、仲睦まじく暮らしていた。ある日、ふとしたことで諍いを始めてしまう…。監督のチャン・ゴンジェは韓国映画アカデミーで撮影を学び、全州国際映画祭の韓国長編映画部門でグランプリと観客賞を受賞した。
若い夫婦が経済的な困難に直面しながらもお互いの愛情とやさしさで切り抜ける姿を暖かく、そして鋭く見せる作品。監督のチャン・ゴンジェの最新作は『ひと夏のファンタジア』。(クリス・フジワラ)
19歳のエレナは、住み込みで老人の介護をするため、ある家族の元へやってきた。やがてその家に息子が戻って来たのをきっかけに、エレナは機能不全に陥った家族の中で一人一人の恐怖と欲望の対象になっていく。監督のネイサン・シルヴァーも息子として出演。
このごく小予算の居心地の悪さのコメディは、不安定さと、俳優の自己表現の増減に向けられた注意深さにおいて、ジョン・カサヴェテスの映画を思い出させる。(クリス・フジワラ)
家族の前から姿を消し、15年経ってから妻と息子が過ごす家へと突然戻ってきた父親エミリオ。家族は混乱しながらエミリオの滞在を許可するが…。現代の代表的な映画作家として注目されているニコラス・ペレーダの長編6作目。ロカルノ国際映画祭で上映された。
長らく不在だった父の突然の帰宅と、反発する妻と息子との対面の物語であり、この監督のこれまでの作品の総括であると同時に、一貫して家族関係とパフォーマンスの問題を探究するなかでの転機となっている。(クリス・フジワラ)
13歳のルーカスは夢のお告げで父がフィリピンの民間伝承にある半馬半人の生き物ティクバラングだと知る。父親は旅に出てしまい、ルーカスは自分が何者なのかというミステリーを一人で探求することになる。フィリピンの新鋭監督、ジョン・トレスの4作目。
セルロイドフィルムを使用した、この遊び心に満ちた複雑な映画は、情報と権力を運ぶ道具としての映画の役割を探求する。(クリス・フジワラ)
中国で長らく生活していたJ・P・シニァデツキが、3年以上費やして中国の鉄道を撮影し、編集したドキュメンタリー。列車の乗客や聞こえてくる会話、車両、窓から見える景色など、再構築された列車の中で不思議な世界が広がる。数多くの映画祭で上映され、好評を博した。
中国の鉄道を3年間撮影し続けた結果、この映画は、時間・空間・動きをめぐり、没入的で、形式的な大胆さに満ちた作品となった。(クリス・フジワラ)
中国の最も重要な若手映画監督の一人としての地位を確立した応亮の作品は、鋭く洗練された政治的眼差しで深い同情と大胆な映画的な感性を兼ね備えている。(クリス・フジワラ)