ジープニー(乗合バス)運転手がアメリカ人に雇われて車ごとパリに移動し、珍妙な労働に従事させられる。監督自ら主演して先進国の独善を揶揄する本作が1982年「南アジア映画祭」で上映されると衝撃が走り、四方田犬彦はゴダールとの比較論をただちに発表。清水展はタヒミックや先住民と暮らして30年後に文化人類学の著作を上梓した。詳しくはシンポジウムで!
退職した大学教授に認知症が兆し、自分はガンディー殺害犯だという妄想に取り憑かれていく…。アジアフォーカス映画祭の初代ディレクター・佐藤忠男はアッサム語映画界の名匠バルアの作品を愛し、『河は流れる』(99)『虹に乗って』(02)に続いて任期最後の2006年に本作を福岡に紹介した。福岡観客賞(コダックVISIONアワード)受賞作。
ソ連邦崩壊後にタジキスタン共和国で初めて製作された長編劇映画。国境沿いの二つの村はソ連時代から人々が自由に行き来していたが、ある日突然軍隊が国境線を作り往来が妨げられてしまう。気象観測所に勤めるロシア人キリルは国境越えの一計を案じるが…。映像美に圧倒されるサイードフ監督のデビュー作。福岡観客賞受賞作。
アンドレア・ヒラタのベストセラー小説(邦訳「虹の少年たち」)を21世紀のインドネシア映画を牽引するリリ・リザが映画化した大ヒット作。スズ鉱山で知られるブリトン島のイスラム小学校を舞台 に、新任女性教師と10人の貧しい児童のふれあいと成長の物語。リザはアジアフォーカス映画祭で最も愛された監督の一人で、多くの作品が上映されている。
『虹の兵士たち』の大ヒットを受けて直ちに制作された続編。高校生になった少年たちは新たな友人とも出会い、それぞれの進路を見つめて勉学に励むが、スズ相場の暴落で家庭が困窮し、暗雲が立ち込める。悩みながらも成長していく若者の姿に社会的不平等や不公正な富の分配といったテーマも加わった辛口の青春映画。
スマトラ南部の熱帯林で活動する環境NGOの女性職員ブテットは「森の民」の子どもたちに読み書きや算数を教えようとするが、現地の大人たちとの軋轢、彼女の活動に理解のない上司、違法な森林伐採を目論む業者たち、といった試練が次々と降りかかる。実在の人物ブテット・マヌルンに取材し、文明とは何かを問うリザの福岡観客賞受賞作。
若い兵士ソーンは半年後の除隊を控えて故郷の村に一時帰省するが、父・母・兄とも所在不明の離散状態で孤独に苛まれる。農業を営む親戚たちも彼を疎んじるが不作で生活は厳しい。「ロマンティックな故郷ではないので白黒で撮影しました」とブンソン監督は語る。 大島渚『愛と希望の街』にも似てタイトルと内容が皮肉なねじれを示している。
ラマダン期間中、首都ダッカのレストランがイスラム過激派に占拠される。警察に包囲された彼らは人質のうち異教徒から殺していく…。22人が殺害された実際のテロ事件をもとに全篇ワンカットで撮り上げた意欲作。世界が注目するファルキ監督の「アイデンティティー三部作」は本作と次作『ノー・ランズ・マン』(大阪アジアン映画祭2022出品)まで進行中。
イラン映画に革新をもたらしたメールジュイの代表作。可愛がっていた牛を失ったショックで自分を牛と思い込んでしまう男の錯乱と妄執、それを取り巻く農村の閉鎖性を描く。東京フィルメックス 2019でデジタル修復版が上映され、その際にアミール・ナデリ監督が「『牛』はイラン映画史上の『羅生門』である」とコメントした。