鈴木一誌(グラフィック・デザイナー)

サイレント時代劇の手練れ、犬塚稔や大曽根辰夫監督のもとで映画人生をスタートさせた柳沢寿男の心身には、映画史が重層している。娯楽映画から戦時中のニュース映画を経て、戦後の企業PR映画や文化映画、そしてドキュメンタリーへ。カラーやシンクロ撮影といった技術革新も横断してきた。だが柳沢は、それらを通過してきたのではない。いまだ多様な方法とともにあるのだ。観客は、映される万物と多様な手法とが共振するのを目撃するとき、一見古風でありつつも未知の映画体験に戦慄する。あらゆる映画文法を動員して作家が描きたかったことはなにか。スクリーンで見届けなければならない。