筒井武文ー映画史を逆側へと突き抜けて行く過激な現代映画作家
諏訪敦彦(映画作家)
東京藝大や映画美学校で教鞭をとっているからという訳ではなく、筒井武文は学生時代から教育者であった。ビデオソフトなど無い時代に、年間1000本の映画を見ていた彼が「これは傑作だ」と呟けば、われわれは否応無くその映画を見なければならなかったし、なぜそれが傑作なのかを考えなくてはならなかった。同じ東京造形大学の学生であった、犬童一心や私をもっとも教育したのは筒井武文である。しかし作家としての彼は、映画館の暗闇にいる時とまったく別の艶やかな表情をしている。大学の教室で「レディメイド」を初めて見た時、シネマスコープで映し出されたファーストカットを見ただけで、ただただ「ああ、映画だ!」と驚嘆したのを覚えている。映画が滴っていた。あれは理論や原理で撮れるショットではない。「ゆめこの大冒険」も、映画史との戯れといった呑気な営みなどではなく、映画への欲望によって映画史を逆側へと突き抜けて行く過激な現代映画であるし、20年前に3Dを奥行きの表現として使おうとした「アリス・イン・ワンダーランド」の映画的先見性も注目に値するが、何よりそれはジャック・ドゥミーのような呪われた愛に貫かれている。学生時代以来ゆっくりと更新されてゆくフィルモグラフィーにおいて、筒井武文が前進させてゆく「映画」に、私は未だに追いつけていない。