ショウ・ブラザーズ特集
宇田川幸洋(映画評論家)
「ショウ.ブラザーズ」は、香港映画の代名詞だった。ブルース・リーによって香港映画への道がひらかれる以前から、その名前だけは、わが国でも知られていた。東洋一の撮影所をもち、東南アジア一帯に興行チェーンを展開している娯楽産業の覇者。ランラン・ショウという、あやしく光るような社長の名前も知られていた。
60年代のことだった。香港映画の第一次黄金時代であり、そのなかでライバルのキャセイ・オーガニゼーションを蹴落とし、年間数十本の大作を量産して、トップをつっ走ったのがショウ・ブラザーズだった。黄梅調歌劇、宮廷スペクタクル、メロドラマ、ミュージカル、コメディ、怪奇…娯楽映画のあらゆるジャンルでクオリティーの高い作品を生み出したが、特に武侠ものと、それにつづくクンフーもののアクション路線は、東南アジア以外でも愛好者が多く、この会社を特色づけている。
1000本ちかくの作品を生み、数え切れないスターを育て、キン・フー(胡金銓)、チャン・チェー(張徹)、リー・ハンシャン(李翰祥)等の巨匠・名匠の活躍の場となった。
80年代後半からは製作本数が激減したが、その名がもつ、香港映画ならではの濃厚な、上品好きの人たちがまゆをしかめるような娯楽のしたたり、薬にはならなくても毒にならなる栄養がたっぷりの刺戟的フリッカーという栄光のイメージはおとろえていない。
これまで、ほんの一部しか目にすることができなかったショウ・ブラザーズ作品だったが、いまや宝庫はひらかれつつある。