監督の言葉
佐藤真(映画作家)

パレスチナという巨大な問題の底知れぬ奥深さに恐れおののきながら、サイードのテキストだけを指針に中東諸国を旅して廻った。永遠に失われたパレスチナでのサイード一家の痕跡を描いた自伝「OUT OF PLACE」を、将来に向けた共生の夢物語として読みかえられないかと願って、旅を続け、多くの人々と出会った。 故郷を奪われたパレスチナ難民も、様々なディアスポラ体験の末にイスラエルに辿りついたユダヤ人も、境界線上に生きていることには変わりがない。その不安定で揺れ続けるアイデンティティを大らかに受けとめようとする人々を通して、そこにサイードが終生希望を託そうとした未来が見えると思った。「OUT OF PLACE」であることは、あらゆる呪縛と制度を乗り越える未来への指針なのかもしれない。