渋谷哲也(ドイツ映画研究者)
ニュー・ジャーマン・シネマの〈新しさ〉はいまだ汲みつくされていない。ファスビンダーをヴェンダースやヘルツォークのような異郷の探訪者でなくドイツに直接対峙した映画作家たちと並べて見た時に、ローカルなものを標的とした彼の映画の意味が理解されるだろう。戦後ドイツの〈新しい〉映画はドイツの歴史社会のコンテクストをその先鋭的な映画美学に絡ませている。クルーゲとジーバーベルクは同時代人として同じモンタージュ技法を駆使しつつ、まったく対照的なドイツ史の脱構築を行っていた。おそらくここにシュレーターを加えると、戦後ドイツの生み出した先鋭的で過激な映画美学の見取り図が浮かび上がるはずだ。