渋谷哲也(ドイツ映画研究者)
ハイナー・カーロウ監督は1990年東欧映画祭で来日した。その際の上映作『カミングアウト』は、東ドイツで同性愛を真正面から取り上げただけでなく、それを抒情的な恋愛劇として描いたことも衝撃的だった。カーロウ監督はメロドラマ映画の持つ体制倒壊的なインパクトの体現者ではなかろうか。そして今回の上映作『死が二人を分かつまで』は、おそらくファスビンダーの『マルタ』に匹敵する結婚生活の熾烈な闘いを描いた名作である。それをマイナー映画と位置付けるのは甚だ心苦しくはあるが、西側のスタイルに比べてある意味で極めていびつな作品構造と心理描写を伴ったこの作品は、東ドイツ映画産業におけるプロパガンダと検閲の葛藤を刻印する貴重な記録として、その「マイナー」性に注目すべきだと思うのだ。