渋谷哲也(ドイツ映画研究者)
西ドイツにおいて赤軍派と国家権力の対決が極点に達した『秋のドイツ』からちょうど40年。今回のマイナードイツ映画講座は、敢えて名作として評価の高い作品を≪再≫発掘してみたい。バーダー=マインホフというリーダーを失った後も赤軍派のテロ活動は続いている。ドイツが統一に向かう80年代末から90年代にかけて起こった2つの殺人事件をナチスの過去との関連で追う。ファイエルは冷静かつ緻密にドイツにおける暴力の負の連鎖を解き明かそうとするが、その成果自体が巨大なブラックボックスとなって我々の前に投げ出される皮肉。社会が新たな激動の予感を孕む今だからこそ向き合いたいドキュメンタリー作品だ。