渋谷哲也(ドイツ映画研究者)
今回の上映作は戦後ドイツ映画の偉大な挑発者2人いや3人(3人目は出演者を見ればピンと来るはず)に焦点を当てている。
ダニエル・シュミット俳優として知られるペーター・カーンは超低予算映画の王道を行く映画作家であり、しかも本作では舞台上で堂々たるプロ俳優の貫禄も見せる。一方シュリンゲンズィーフは映画から舞台パフォーマンスに活動場所を移し、まさに水を得た魚のように人々を論争の渦に巻き込む。そんな両者がタッグを組み、欧州に吹き荒れるネオナチと排外主義の問題を過激かつ美的な『ハムレット』上演に組み込んだ。
カーンの皮肉な哄笑が聞こえてくるこの映画は、おそらくシュリンゲンズィーフの挑発性にもっとも肉迫したドキュメントである。そして3人目のスターへのあまりにも美しいオマージュといえよう。