全世界を映す露の一球
森まゆみ(作家)
意識して最初に見たのは『琵琶湖・長浜・曵山まつり』(1985)。秀吉時代に始まる子供歌舞伎の継承、その記録中に地域とは何か、伝統の継承とは何か、子供を育てるとはどういうことか、すべての問いがある。映像詩の中にたくまざる笑いもあった。
考えてみれば、松川監督の作品はいくつも見ているのであった。映像や脚本に注意を払うことによって、私はようやく松川八洲雄の偉大とゆるぎなさを発見した。彼は、声高ではない。全世界をとらえるより、「全世界を映す露の一球」をとらえようとする。自治体や企業から依頼された作品でも、ぎりぎりのところで妥協しない。『青森発・縄文元年・日本』も『ムカシが来た』もそうだ。まつろわぬ民の悲しみ、生産第一主義への怒りを低い声で語りつづける。それは美しい映像と溶けあうて、「ふつうに生きる」人びとのつらさに寄り添い、仕事をあたたかく受けとめる作品となった。そのギョロリとした目、さびしがりで怒りんぼの松川さん、もう一緒に飲めないけど、何度見ても私は飽きることがないでしょう。