葛生賢(映画作家・映画批評家)

今日、リュック・ムレの名はもっぱら「トラヴェリングとは倫理の問題だ」という名高い一文とともに知られている。1950年代の「カイエ・デュ・シネマ」誌に最年少の批評家として参加した彼は、エドガー・G・ウルマーらB級映画作家をいち早く擁護した「作家政策」の急先鋒だった。そのウルマーを導きの糸に、映画作家となったムレもまた、厳しい予算・撮影日数を逆に創造性へと転化する「乏しさの詩学」へと向かう。ストローブが「ブニュエルとタチの継承者」と称える彼の映画作りは必ずや日本の若い映画の作り手たちに刺激を与えるはずだ。