映画はまるごと 種村季弘 映画はまるごとの体験だった。映像として自室に隔離されるのではなく、まず映画館という共同空間があった。そこへ入るには向かいの古本屋で古本を処分して入場券を購入し、お金があまれば帰りに闇市の飲み屋で一杯ありつける。そんな現実さえ入れ子にした総合体験だった。抗菌思想にたぶらかされた今時と違い、雑菌がうようよしていた映画まるごと体験の時代。そのことを同時代の映画をサカナにおしゃべりしてみたい。