開講のメッセージ
「ドキュメンタリーはその原始から映画の変革者だった」
佐藤真(映画作家)
「ドキュメンタリー映画への信望は、もっぱら実験によって得られてきた」。これは、とかく啓蒙主義に陥りがちなイギリス記録映画運動の渦中において、ジョン・グリアスン的事大主義を実験精神の称揚で乗り越えようとしたアルベルト・カヴァルカンティの14テーゼの結語である。ドキュメンタリーはその原始から映画の変革者だった。ドキュメンタリー映画運動は社会の変革の武器としてではなく、映画そのものの制度とスタイルの革命を目指すものだったのだ。そうした実験精神にあふれるドキュメンタリーの映画変革の歴史を日本のドキュメンタリー作家の系譜の中から見つめ直してみたい。それが、この日本ドキュメンタリー作家列伝を始めようとしたモチベーションである。戦後民主化運動を支えた教育主義からの逸脱、社会主義リアリズムとの決別、企業・政府のPR映画からの横溢…などはすべてこうしたドキュメンタリー作家たちアヴァンギャルド精神の発露の結果といえる。そうした体制・反体制内部の変革者たちの営為の積み重ねが、日本の自主独立のドキュメンタリーの太い鉱脈を形作る土壌となった。
こうした実験精神に溢れる先達たちの作品群に今再び光をあて、直接作家本人を招いて、その映画の枠を踏み越えようとする革新の精神を虚心に学びとりたいというのが、この「日本ドキュメンタリー作家列伝」の目的である。
(2006年1月1日)