筒井武文(映画監督)
日本の戦後ドキュメンタリー映画の大きな流れは、全12回の講座で受講生と共に確かめてきたが、まだまだ触れられなかったことは多い。とりわけ柳澤壽男に関しては、第1回で、GHQ占領下の時代の『炭鉱』(1947)から『海に生きる』(1949)で、日本のドキュメンタリー表現を深化させ、1940年代のトップランナーであったことを観ていながら、その後の軌跡をフォローできなかったことに悔いが残っていた。今回、佐藤真の『阿賀に生きる』(1992)、『阿賀の記憶』(2004)で撮影を担われた小林茂さんに、柳澤晩年の福祉ドキュメンタリーの現場について語っていただけることになった。『夜明け前の子どもたち』(1968)に始まる5部作では、それを撮っていいのか、それを撮れる条件を持っているのか、という自問自答がドキュメンタリーの成立条件の限界に至っている。つまり、ドキュメンタリーが劇映画と異なるとすれば、撮る側の倫理が問われるということである。観る側でも、これを観ていいのかという、解決のつかない二律相反に陥った筈である。小林茂さんは、『そっやない、こっちや』(1982)では助手・スチール、柳澤最後の作品『風とゆききし』(1989)では助監督・スチールを務められていて、そうした柳澤の映画に対する姿勢を最も間近に見て来られた方である。それが、佐藤真が処女作のパートナーに小林茂を選んだ理由でもあるだろう。佐藤真にとっても、柳澤壽男は土本典昭、小川紳介と並ぶ最も影響を受けた先達であった筈だ。「柳澤壽男から佐藤真へ」という日本ドキュメンタリー映画史を再発見したい。