筒井武文(映画監督/東京藝術大学大学院教授・映画美学校講師)

日本のドキュメンタリー史を、映画作家による映画論と実作の両面から検証し、
ドキュメンタリー映画の現在を考え、今後を展望したい—。

ドキュメンタリー映画の現在を問い直すために、戦後の日本のドキュメンタリーを映画作家によるテキストと関連する作品を見ることから検証したい。
5月から始まる前期6回の講座では、1945年から60年までのドキュメンタリーを考える。その絶好のテキストとなるのが、野田真吉と松本俊夫の対談『戦後ドキュメンタリー変遷史』である。これは1964年に『記録と映像』という「映像芸術の会」の主催による会報に、6回連載されたものである。そこでは1945年から60年までの作品に対して、激しい批判が投げ掛けられる。その背景は、62年に起こった「記録映画作家協会」の分裂であり、啓蒙的な姿勢を保つ主流派に対して映画の革新を目指す少数派は、新たに「映像芸術の会」を結成することになった。そのイデオローグだったのが、松本俊夫であり、彼を支持した野田真吉である。松本俊夫は、その前年に、第一批評論集「映像の発見」を出版して、映画人に大きな影響を与えていた。前期の6回の講座では、『戦後ドキュメンタリー変遷史』を読みながら、そこで言及された作品を見直すこととする。それは、彼らの批評や実作の、時代を超える有効性を問う試みでもある。
10月から始まる後期6回講座では、1960年以降の日本ドキュメンタリーの流れを、やはりテキストと作品の両面から検証する。とりあげる映画作家は小川紳介、土本典昭、大島渚、吉田喜重、青山真治、佐藤真である。彼らも、実作と批評を通して、ドキュメンタリー映画の新しい地平を模索した映画作家たちである。小川、土本、大島、吉田には「1968年」の問題が、青山と佐藤は「21世紀のドキュメンタリー」という重い課題が課せられることとなる。