ペドロ・コスタとともに映画の二十一世紀が始まる
蓮實重彦(映画批評家)
『血』は、ポルトガルの新人監督ペドロ・コスタの確かな未来を約束する見事な処女作だった。『溶岩の家』は、期待を遥かに超えた堂々たる第二作だった。『骨』は、すでに世界的な映画作家の域に達しているペドロ・コスタの個性豊かな自信作だった。だが、『ヴァンダの部屋』は、あらゆる予測を超えた真の傑作である。ボリス・バルネット、ジョン・フォード、小津安二郎、ストローブとユイレ、等々の途方もないミックスからなっていながら、勿論、そのどれにも似ていないまぎれもないペドロ・コスタの作品だ。『ヴァンダの部屋』は、『ゴダールの映画史』の限界さえもきわだたせかねない映画の中の映画である。であるがゆえに、映画の外へと向けてとめどもなく拡がりだしてゆく。この三時間の陶酔。そして三時間の覚醒。二十一世紀がまたしても映画の世紀であると誇らしげに宣言するこの三時間を、いますぐあなたのものとせよ。