渋谷哲也(ドイツ映画研究者)
「(新)ベルリン派」と呼ばれた21世紀ドイツの新しい作家映画の運動は、1980年代末から90年代にかけて壁崩壊から統一に至るベルリンで映画を志した若者たちから始まった。
アンゲラ・シャーネレクと共にベルリン映画アカデミーで学んだトーマス・アルスラン、クリスティアン・ペッツォルトは、ニュージャーマンシネマを過去の映画と見なし、その後の商業主義化したドイツ産コメディ映画に背を向け、ひたすら純粋に「映画とは何か」という問いと向き合った。
彼らは90年代半ばより独自に開始し、それぞれ個性的な映画美学を練り上げていったが、やがてさらに若い反商業主義的監督たちが登場するに至り、次々に「ベルリン派」と称される監督の数が増えていった。
実際にはグループの内発的なアイデンティティなど存在しなかったが、今改めて彼らの映画をまとめて観ると、ナショナルな境界の揺らいだ寄る辺なき世界の中で真摯に見つめること、受け取ること、伝えることとして、新たな対話の方法を模索していることが共通点として浮かび上がる。
「ドイツのヌーヴェル・ヴァーグ」と称された「ベルリン派」の作家たちこそ、21世紀のインディペンデント映画の最も先鋭的な形を模索した映画運動として今こそ再発見されるべきだろう。