四方田犬彦(映画研究者) 東南アジアには怪奇映画が絶大な人気を博している国が存在する。とりわけタイ、インドネシアでは、それは映画産業の根幹を占めている。複雑な宗教的背景と豊かな民間伝承をもち、ハリウッドとJホラーの影響を受けて発展したこのジャンルからは、復讐の女幽霊、よみがえる死体、怨恨の双生児が、次々と現われてくる。太陽は熱く、料理は舌を焼くほどに辛く、そして映画は世界のどこにもまして恐ろしい。これがインドシナ半島の3原則だ。