ロスコー・アーバックル特集
新野敏也(喜劇映画研究会代表)
チャップリンの先輩でありバスター・キートンの師匠。活動写真が華やしき頃の特大スター(体重120kg)ロスコー・アーバックルのヘビーな特集!
アーバックルは“デブ君”“ファッティ”と呼ばれ、映画がまだ若かった1910年代に世界的な人気を博したコメディアン。かの淀川長治先生も幼い頃に一番好きだった俳優と言う。そんな昔のスターを今なんでリバイバルするの?と思う人こそ見てほしい。“デブ君”の作品には、映画黎明期のバイタリティと愛嬌がタップリ詰まっている。“デブ君”の巨体は風船みたいに軽々と跳ね回り、動物的な勘と精緻な思考回路を合わせ持つパントマイムで、我々を別世界へ案内してくれるのだ。さながら天国の地雷源みたいなギャグ、天然の原子力発電みたいなエネルギーが、了見不要の好奇心をくすぐるはず。
そんな“デブ君”アーバックルがなぜ今日まで埋没しているのか?それは私生活で起きた殺人事件の嫌疑による、不幸なスターの素顔にある。しかし当人のプロフィールがどうであっても、フィルムの中には永遠のパワーが記録されている。キートンを経て、ウッディ・アレンにも受け継がれた“デブ君”のセンス。今回の特集は、キッチュでオシャレなコメディのルーツを再発見する絶好のチャンスだ!