「佐分利信を再見する」
木全公彦(映画批評家)
佐分利信といえば、重厚な演技で知られる名優であることは、日本映画に少しでも通じている人間ならば誰でも知っている。しかし、佐分利信が日本映画全盛時代と言われる1950年代に「老練な新人監督」という形容矛盾の言葉で注目を浴びていた映画監督でもあったことを知る人は少ない。当節流行の異業種監督どころか、彼は溝口健二、成瀬巳喜男、黒澤明、木下惠介といった監督たちにつながる位置を占めていたのである。嘘ではない。佐分利は彼ら同様に、キネマ旬報ベストテンにその監督作を同じ年に2本もランクインさせているほどの実力を持っていたからである。それがなぜ忘れられたのか。なぜほとんどの作品を見られないのか。その謎を彼の作品に貫かれるユニークな個性とともに考察したい。