「岸松雄ーー早すぎたヌーヴェルヴァーグ(?)」
田中眞澄(映画史・文化史)
新人監督山中貞雄の劇的な発見。山中と名人小津安二郎、天才清水宏との交友の仲介が、やがて日本映画監督協会の結成につながっていく。故・双葉十三郎氏の晩年の証言によって突如自作自演の影が浮上したとはいえ、批評家岸松雄の日本の映画史における役割は、1930年代の華麗な神話である。そして彼らに魅せられた形で、岸松雄は批評から実作の現場に身を投じた。だが、彼を待っていたのは商品生産という日本的製作の世界しかありえない。監督作品は唯一本。その後のシナリオの職人仕事に、彼の真実ありやなしや。戦後の映画人評伝シリーズの評価はいかに。岸松雄はあるいは「早すぎたヌーヴェルヴァーグ」だったのだろうか。