「エイゼンシュテインにおける歴史と時間」
井上徹(映画史・ユーラシア文化研究者)

 『メキシコ万歳』は、監督本人が完成させることができなかった。米国のプロデューサーと意見が食い違って撮影が途中で頓挫し、撮影済みのネガも米国に残して帰国せざるを得なかったのである。しかし、もし作品が完成していれば、映画における歴史・時間論において重要な作品となっただろう。この作品は、メキシコで「過去から現在までが同時に存在」し、それを記録することでメキシコ2000年の歴史を語ることができるという、ユニークな発想から生まれたのだから……。撮影直後に米国で編集された『メキシコの嵐』、約半世紀を経てソ連で編集された『メキシコ万歳』という2つの映画を通じて、エイゼンシュテインの構想を読み解いてみたい。