「シャブロル映画の女たち」
大久保清朗(映画研究者)
数多くの犯罪映画を手がけたクロード・シャブロルにとって、女性たちは常に重要な存在であった。だがそれが独自の意味を担い始めるのは、シャブロルが「ポンピドゥー(政権)の時代」と呼ぶ、『女鹿』以降の作品だ。加害者と被害者とがつねに交換可能な存在でありつづけるその暗鬱な作品群。『二重の鍵』や『青髭』で、かよわき犠牲者でしかなかった女性たちは、ステファーヌ・オードラン、イザベル・ユペールという二人のミューズを介することにより、「悪」と深く共鳴し、人間に巣くう〈為体の知れなさ〉を開示する存在と化していく。日本未公開作品からの抜粋を中心にしつつ、シャブロル映画における女たちの魅力を探っていきたい。