塩田明彦(映画作家/映画美学校アクターズ・コース初等科主任講師)
映画における「演技」のなにが素晴らしく、なにが間違っているのかをあらかじめ決定づける唯一絶対の原理は存在しない。それゆえあらゆる演技は、その俳優が出演する映画そのものから切り離して論じることができない。それはまた同じ演技、演技者、被写体がある映画では素晴らしいものでありながら、他の映画では平然と退屈でありうることを意味してもいる。
だからこそ私たちは「映画における演技」というこの複雑怪奇な現象について、演出の側からみた演技/演技の側からみた演出という、複数の視点の交わる場所から可能な限り具体的に捉え直してみたい。
おそらくその試みの先には答えの下しようのない複数の問いが様々に矛盾し合い、共鳴し合う世界が広がりだしているだろう。
だがそれでいいのだ。そうした矛盾を愛し、身を委ねることこそ「表現」への第一歩であり、またすべての「表現」を次のレベルへと飛躍させる力となるのだから(2012年6月13日)